エリカ抄 杉本駿彦詩集

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 1974年5月、木犀書房から刊行された杉本駿彦の第8詩集。装幀は亀山巌

 

 菅野佐代子さんは、歌人大西民子さんの実妹である。お会いしないうちは含羞の佳人と思いこんでいたが、直接お話するようになって、思いちがいの点が判った。学究的で、勝気で、繊細な思いやりもあり、行動面ではとても清潔であった。この世では得難い部類にはいる数少いひとのひとりである。お話したのも両三度で、いろいろ訓えられるところも多かったが、今ではその望みも空しい。しかし、私のなかに鮮かに生き続けるひとだという思いが日増に強い。
 また、私の知る限りでは、姉思いの、姉の仕事をいかすために、生涯をささげてしまったようにも見られるので、性根がいぢらしく感じられ、ありあまる才能の点でも、惜まれてならないのであった。
 英文科を出た佐代子さんは、四か国語に通じながら、他人に誇示することなく、ひそかにわが道を歩いていた。従って、文章として残したものは尠く、卒業論文として選んだエミリ・ブロンテの『嵐が丘』に関する、あたらしい見解を示した原稿のほかには、雑誌『短歌』昭和四十七年四月号のなかの、「わが家のシレーヌ(大西民子の素顔)」というエスキスしかなかった。
 最初から、私は詩集『エリカ抄』を制作しようという意図はなかった。「夏すぎたヒースの花」と「早春の花屋で」の原形は、佐代子さん在世中に制作したものであり、確かに佐代子さんも目を通されたと思う。しかし、この二篇で終ろうとしたのが、遽かに佐代子さんの急逝ということになり、私は心を決め挽歌をかこうという意欲をおこした。一篇一篇が切なくて耐らぬ思いがした。
 制作したもののうちから選び、四十年来の畏友である亀山巌さんに見ていただいた。
 亀山さんから、こまごました御注意があったが、美しい挿画も描いてくださったので、改めて大西民子さんとも御相談した上、刊行にふみきることにした。
 安部宙之介さんには、今迄いろいろとお世話になっており、さらに御迷惑をかさねるのは心苦しいと思ったが、とくにお願いして木犀書房刊行本の一冊に加えていただく光栄を得たことは、大きなよろこびである。
 佐代子さんの命日は、六月四日で、生前殊に愛好していた薔薇のはなの咲くときでもあるが、今は埼玉県岩槻市にある浄国寺に、ながい休息の場所を得られた。――私は、在りし日の佐代子さんの面影を思いうかべ、私のささやかな仕事に対し、心から温かいご援助たまわったかたがたに感謝申しあげたい。
(「覚書」より)

 


目次

  • 夏すぎたヒースの花
  • 早春の花屋で
  • 夏のかたみ
  • その年の秋が来て
  • クリスマス・イヴ
  • 雪のあと
  • エリカ
  • 新しい年の早春
  • 春先の弱いつむじ風
  • やがては迎える初夏

著者詩集目録ならびに覚書

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