2007年1月、角川書店から刊行された池田はるみ(1948~)の第4歌集。装幀は伊藤鑛治。著者は和歌山県生まれ、大阪育ち。
この歌集は四番目の歌集となる。前歌集『ガーゼ』から五年が経っ。
一九九九年四月からわたしは働くことになった。ほとんど外で働いたことのない主婦が五十歳を過ぎて仕事を持ったのである。師の岡井隆の推薦があったとはいえ、NHK学園の短歌講座は良い職場であった。働くということはとても面白いことだと思った。たとえ職場で嫌なことがあったとしても、そういうことすら、もう若くない人生経験が面白いと思わせるのだろう。
この歌集には、東京で営々と築いていた三十四年の生活がある。東京という文化にどれだけ溶け込んで生きてきたかが問われている。溶け込めたと胸を張って言える所は少ないが、日々努力を重ねたことは間違いない。この間に、ひとり息子が結婚をして独立をした。夫婦ふたりの静かな生活になると思いきやなかなかそうはならないのが世の常である。ふるさとの大阪には、親がなく長兄がなく帰ることも少なくなっていった。
最先端の東京は、すばらしく刺激のある場所だ。一方で、何代も続いた生活や人情を守っている東京の人がいる。商売に真面目で、粋な遊び人という旦那気質の池田の義父のような人に巡り合えたことは幸せだった。その義父も昨年八十九歳で亡くなった。わたしはそういう人たちの間で、可愛がられつつ暮らしてきたのである。
人の世に生きることはつくづく難しい。この歳月、わたしはそう思って歌を作ってき
この歌集に、おかしうてやがて悲しき人の姿が描けていたら幸いである。
(「あとがき」より)
目次
- 職場
- 日暮れに
- ぽそぽそ
- 悲しみ
- 旅の柿
- とほいとほい
- 白つばき
- 春の税務署
- をばさん心
- はたらく車
- 根津のお龍
- 下谷「道明」
- 日々のくらし
- 初場所八日目(二〇〇三年一月二十日)
- 東京をちこち
- お江戸が残る
- ふるいひかり
- 東京近代短歌散歩
- ことば
- 恍惚の域
- 整体師
- 上野とんかつのこと
- ハンバーガー
- 鉄と駅舎
- スケッチ
- 町家
- 朝雪
- 大きな穴
- しろつめぐさ
- 青い戸
- ふくろふに遇ふ
- 桜
- 武士と貧乏
- 婚とふろしき
- 頼るもの
- 夏の日々
- くさや
- 闇
- おさびし山
- いつつの橋
- あしおと
- リヨンにて
- 耳鳴り
- 電車に
- 舅の死に方
- おとなこども
- 湯気
- 私立学校
- 各駅停車
- がらんどう
あとがき
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