詩の想原 鑑賞への案内 現代西日本詩篇 宮本一宏

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 1968年5月、昭森社から刊行されたアンソロジー詩集。編集・解説は宮本一宏

 

 詩の魅力は、作品の所有する言葉の映発と、発想の成熟との微妙な融合にあるようだ。小説が描写あるいは説得の文学であるならば、詩は暗示あるいは比喩の文学であるだろう。優れた詩には新しい経験の世界が創造されていなければならないし、暗示力を極限に孕んだ言葉の技法が生かされていなければならない。発表された詩は、それが有名無名の詩人の作品にかかわず、すでに作者の庇護をはなれた独立の存在である。
 収録作品はかならずしも代表作ではない。作者が信じている代表作とは限らない。言うまでもなく模倣的発想の作品は、それが力作であり詩誌仲間の同情評価があっても、代表作とはなり得ないだろう。収録作品には、名詩とよべるもの、素朴なもの、あるいは実験的なもの、その完成度にかなりの差を認めることができるが、いずれもわたしが心を動かされ、興味を覚えた詩を扱った。一○○篇、九七名をとりあげている。本書は作品羅列的なアンソロジィと異った多様な詩の形態を捉えることに努め、また分類した作品相互の比較による面白さも汲みとってもらえるだろう。わたしの詩的直感力が、作品の本質あるいは作者の内面に、どの程度切りこめたか、また主題を理解しえたか、わたしなりの評釈的案内を試みている。
 一九六四年に評伝『九州の近代詩人』(国文社刊)を出したころから、わたしは詩の評釈や近代詩人研究に関心をもちはじめ、本書で『九州の近代詩人』の続篇的な仕事に取りくみ、二度目の秋を迎えてまとめることができた。この間に「加藤介春の世界」(『燎原』1~4号)「三富朽薬の死をめぐって」(『詩賊』10~2号)「現代詩覚え書」(『詩賊』3号)、伊東静雄「自然に、充分自然に」(現代詩の鑑賞特集『国文学』4月号)「詩原形の発見」(『燎原』5号より連載中)などの詩人論的エッセィを発表してきたが、今後わたしが詩の評釈的分野の研究を進めていくうえにも、この仕事は果たしておかなければならない宿願のひとつであった。
 対象とした詩人は、西日本(九州・山口)地域で詩集・詩誌発行のもっとも活況を呈した昭和三○年代を基軸とみた時期に、詩活動をつづけた人たちから承諾を得た詩人のみを収録した。この種のアンソロジィは不備をまぬがれぬ運命をもっており、残念ながら有力視されている詩人主観的配慮で幾人か割愛している。作品の選択には、およそ一七〇冊の詩集と三○○冊ほどの詩誌(文芸誌を含む)を参考資料とし、二〇人の詩人からアンケートを求め、各詩人のカードをつくって慎重を期したが、結局は好みの作品を内容的に分類編集した。
 本書は戦後の現代詩を支えている西日本の異色的作品の鑑賞と、詩人研究への案内を試みたひとつのアプローチである。最初は『詩の果実』という書名を考えていたが、作品の志向の多様さから、総括的なイメージにかなう〈想原〉をとりいれ『詩の想原』とした。
 このささやかな仕事に激励を戴いた人見東明、木俣修両先生、安西均氏ならびに松永伍一、堀川喜八郎、木村秀明の各氏、とくに丸山豊先輩からは、かなりの詩集を拝借できたことを心から感謝している。
(「あとがき」より)

 

目次

・形而上篇

  • 本多利通 もしも沈黙が
  • 金丸桝一 日の歌(抄) 夏・野良犬が一匹 
  • 境忠一 虫の手紙 
  • 永田茂樹 むかで 
  • 寒川鮒太郎 二股出合にて 
  • 石村通泰 ゆうひ 
  • 福島和昭 うた
  • 岡昭雄 地下室へ 
  • 柿添元 悲魚 
  • 有田忠郎 時間 
  • 赤沼章 風景 
  • 幸和美 夜行列車 
  • 田中詮三 杉
  • 坂井艶司 蝉を彫る人 
  • 桑原圭介 エピグラフの背景 
  • 崎村久邦 饑餓と毒(抄)

・愛慕篇

  • 丸山豊 愛についてのデッサン (抄) 
  • みえのふみあき あなたは暗くみちて 水の上で
  • 片瀬博子 ベラフォンテ 
  • 浜田遺太郎 あなたの果てしない頷きの前で 
  • 井上寛治 抱擁 
  • 千々和久邦 約束 
  • 織坂幸治 世界のなかのおまえ 
  • 各務章 まなざし 瞳のなかで 
  • 汐見純一郎 幻の少女 
  • 高木護 日曜日 
  • 平井光典 午睡 
  • 深町準之助 囚われの日に 
  • 赤石光 火の蝉 
  • 本田真一 痣
  • 菅原純 岬
  • 池田慶子 変身 
  • 吉村三生 WOMB 
  • 関竜太郎 裸婦 
  • 礒永充能 門(Ⅰ・Ⅱ)

・人生篇

  • 黑木清次 对話 
  • 一丸章 血淚記
  • 河野正彦 掘る
  • 仙川竹生 斜面で
  • 平田英德 生活 
  • 田中長二郎 脚 
  • 服部七郎 雨夜 
  • 原口良夫 流れている 
  • 綿井博 骨 
  • 谷村博武 チェロの音色となって 
  • 原田種夫 死の貌
  • 高木秀吉 生
  • 上村肇 みづうみ 
  • 潮田武雄 庭にて 
  • 小田雅彦 春の地図 
  • 大重春二 夕暮の金色に 
  • 山內龍 村史

・事象篇

  • 福島和男 若い詩人の死 
  • 野田寿子 蜜柑
  • 風木雲太郎 早春の山 
  • 夏目漠 牛の独白 
  • 石田光明 牧童図
  • 藤坂信子 孔雀
  • 山口要 山鳥 
  • 中村盛利 蜘蛛 
  • 吉村光二郎 ビルと蝶 
  • 梅木嘉人 裸婦 
  • 池正人 女体
  • 三河俊一 アフリカ 
  • 倉田千恵子 埴輪の唄
  • 上田幸法 処刑 
  • 水元ガン 湾
  • 富成博 癌 
  • 荒木力 鎌倉
  • 黒田達也 原城

・諷刺・日常篇

  • 三鬼宏 ありじごく 
  • 秋吉久紀夫 南方ふぐのうた 
  • 渡辺勝義 ふんにょうたん 
  • 高橋睦郎 共同便所 
  • 高松文樹 虚言 
  • 小野和之 荒野
  • 井上岩夫 桜島 
  • 今村嘉孝 残像 
  • 池崎輝夫 ぼくは一夜じゅう
  • 今田久 木
  • 首藤三郎 スズメ

・抵抗篇

  • 麻生久 廃坑の町 
  • 內田博 人間喪失
  • 津代昭郎 坑夫 
  • 松永伍一 発掘 
  • 鈴木召平 農民と匪賊
  • 瀧勝子 渡る
  • 筑紫義郎 狂人 
  • 湯川達典 哭く
  • 南邦和 東京 
  • 杉谷昭人 受胎 
  • 三上正雄 戦いに負けて帰った 僕達の重たい荷物 
  • 轟龍造 不在
  • 山田かん 地点通過
  • 塚本貞一 恐怖 
  • 木下和郎 人間模型 
  • 堀川喜八郎 あすは他人

あとがき

 

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