詩と土着 境忠一

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 1971年12月、葦書房から刊行された境忠一(1930~)の評論集。著者は大牟田市生まれ、刊行時の職業は福岡大学人文学部助教授。

 

 この書は『評伝宮沢賢治』(昭四三・四桜楓社)、『詩と故郷』(昭四六・三桜楓社)につぐ三番目の論集である。前二書がいずれもA五版四百五十頁前後の、大部とはいえないまでも部厚い本であったのに対して、この書は手頃な頁数となった。これまでも、大著を目指して書いたのではなく、主題が止むを得ず枚数を強いたので、本来は頁数の少ないものを考えていた。前著『詩と故郷』では表題のように、「故郷」を手掛りとして、近代詩の変選を考えたのだが、「故郷」というモチーフではそこに限界があることは知れていた。むしろ、その限界を契機として書いたともいえる。しかし、「故郷」を「土着」と代えてみても、限界をうち破ることは難しい。
 この書でとりあげた宮崎湖処子以下、計八名の詩人たちはいずれも九州山口出身の詩人たちだが、九州山口という地域性を念頭に置いて書いたものではない。むしろ、地域性を越える普遍性を持つ詩人だけを選んだつもりだし、「近代」に対峙する「土着」という問題をめぐって書こうとした。
 この書の企画は、葦書房の久本三多氏によるもので、そのすすめがなかったら、おそらくはこのように急には生れなかっただろう。前二書では表題をきめるのに苦労したけれども、この書は久本氏の意見もあって、書き出す前にほぼきまっていた。
 この中で、宮崎湖処子、北原白秋中原中也伊東静雄については『詩と故郷」ですでに一度は論じている。この書のものはその続篇にあたるが、いずれも独立したものとして書いた。前著を参考にして下さればありがたい。
(「あとがき」より)

 


目次

詩と土着――近代詩源流考

  • 一 近代詩の断層
  • 二 抒情詩の源流 
  • 三 近代詩と土着

宮崎湖処子――明治二十年代の湖処子

  • 一 明治二十三・四年頃の湖処子
  • 二 明治二十七・八年頃の湖処子

北原白秋――その思想性について

  • 一 『思ひ出』の詩法
  • 二 『白金之独楽』の位置
  • 三 「洗心雑話」から「芸術の円光」へ
  • 四 国民詩人への道

三富朽葉――その位置について

加藤介春――その形而上性について

  • 一 不遇の詩人加藤介春
  • 二 『獄中哀歌』と『梢を仰ぎて』
  • 三 未刊詩稿「夕焼」と『眼と眼』 
  • 四 「加藤介春集」以後

中原中也――その土着性について

  • 一 ダダ詩と「初期詩篇」の庶民性
  • 二 「朝の歌」から「宿酔」へ
  • 三 『在りし日の歌』の一元世界

伊東静雄――その位置について

  • 一 立原道造伊東静雄 
  • 二 写生批判と『わがひとに与ふる哀歌』 
  • 三 『夏花』の位置 
  • 四 『春のいそぎ』から『反響』以後まで

蔵原伸二郎――原始への渇望と文明批判について

  • 一 『東洋の満月』と萩原朔太郎
  • 二 『東洋の詩魂』と吉田一穂
  • 三 『岩魚』の存在論

谷川雁――原点の思想をめぐって

  • 一 終焉と出発
  • 二 「原点」をめぐって 
  • 三 工作者から自立の思想へ

あとがき


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