1992年10月、婦人之友社から刊行された石垣りん(1920~2004)によるアンソロジー詩集。装幀は島田光雄。
世間に発表された作品は読者を選り好みしませんので、私は勝手にたくさんの詩と付き合うことが出来ました。有難いことでした。
婦人之友から「あなたの好きな詩について、短い文章を書いてみませんか」と誘われたとき、解説をする力はないので、その詩が折にふれ私とどうかかわり、どう働きかけたか、書くとすれば自分のことばかりです、と答えました。
連載といっても半年続けられる自信もなく、毎月出来るか出来ないかの瀬戸際を通って五年たちました。編集部の助け舟に運ばれた月日でもありました。
渡り終えた岸で、肩から下ろしたわずかな仕事を、今度は一冊にまとめてくださるという、思いがけない話が待っていました。
言ってよければ、私にとって実用だった詩のことば、またどなたかの暮らしの中によみがえるきっかけとなるなら、読者に深くお辞儀して、私は立ち去るのがよいと思います。
(「あとがき」より)
目次
- 山芋の少年 虫けら 大関松三郎
- 静寂の破れ目 おまえがきたので 城侑
- 碑銘 天下末年―庶民考 伊藤信吉
- 道 やせた心 中桐雅夫
- 演説 青イシグナル 近藤東
- 味覚 つくだにの小魚 井伏鱒二
- きのうのこと 骨のうたう 竹内浩三
- 会釈 お辞儀するひと 安西均
- 秋が歩いてゆく 漂々と口笛吹いて 中原中也
- そのかなたに 秋の虹 乾直惠
- 孵化 十月の詩 井上靖
- 座席ひとつ 夕焼け 吉野弘
- せんたく ジーンズ 高橋順子
- 花百匁 おならは えらい まど・みちお
- 野良 猫 山之口獏
- リュックを背に 夜明けに 吉原幸子
- 森のはずれ 鹿 村野四郎
- 木守り 猿蟹合戦 大木実
- 遠い港 汽船 田中冬二
- ことばの住処 秋の夜の会話 草野心平
- 手をふるもの 遊び 岸田衿子
- 歌う 声 会田綱雄
- 架け橋 風よ静かにかの岸へ 島崎藤村
- 鏡 あなたはだんだんきれいになる 高村光太郎
- きのうの朝 焰について 永瀬清子
- 抱く 朝のいのり 山本沖子
- 窓 悲しみの数 滝口雅子
- 寒い町 三人の親子 千家元麿
- 訪問 昨日いらつしつて下さい 室生犀星
- 時々刻々 さようなら 谷川俊太郎
- 初日 太陽の光を提灯にして 石垣りん
あとがき