光陰 鍵和田秞子句集

 1997年5月、角川書店から刊行された鍵和田秞子(1932~2020)の第5詩集。著者は神奈川県生まれ、刊行時の住所は府中市栄町。

 

 『光陰』は、『未来図』『浮標』『飛鳥』『武蔵野』に続く第五句集である。平成二年から平成六年までの五年間の作品、千四百ほどから、三百九十句を撰んだ。この間、平成四年に、俳誌「未来図」は百号に達し、私は還暦を迎えた。更に、平成六年には「未来図」十周年を迎えることができた。私としてもその年を一つの区切りとして、『光陰』を編んでみた。
 この五年間を振り返れば、およそ頑健とは程遠い私が、ともかく精一杯の仕事をし、無事に歩み続けることができて、感謝の他はない。それは周囲の皆様の御支援のたまものである。まことに貴重な歳月の流れであったことを思い、集名を『光陰』と名付けた。
 纏めてみると旅先での句も多い。ほとんどが仕事による旅であったが、元来、漂泊への憧れが強いので、旅先では詩心を刺されることが多かった。中でも最も大きな感銘を受けたのは、シルクロードの祭典に文化交流団として「未来図」の有志が参加した旅であった。敦煌莫高窟の仏教芸術にも心打たれたが、初めて見た真夏の砂漠に、なによりも心を奪われた。
 果てしない砂漠にある小さな無数の砂山。それが全部墓群だという。砂に生きた人たちは砂に眠っていた。昔々の兵士の砂墓も隊を成したまま無数にあった。その果てに蜃気楼の大きな湖が出現する。その悠久な砂漠のった。墓原の景は私の心を揺り動かし、人々の暮らしとともに忘れ難いものになった。
 こういう思いが、少しずつ私の句を深めてゆくことだろう。自然と一体になりながら、不可思議ないのちの相を詠みたい。一句一句、何かしらの新しみを、手探りしながら求めてゆきたい。そう思いながら、今後も精一杯の努力を続けて行くつもりである。
(「あとがき」より)

 


目次

  • 野火 平成二年
  • 桜千本 平成三年
  • 寝釈迦 平成四年
  • 月明 平成五年
  • 蜃気楼 平成六年

あとがき


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