2014年3月、港の人から刊行された稲葉真弓の第4詩集。
「母音の川」から十二年ぶりの詩集となった。
小説を書く合間合間に、詩の言葉が水滴のように私のなかに溜まり、それが滴る水のように言葉となって降りそそぐ瞬間を、至福の時として味わった。書き下ろしが多いのは、この不意打ちのような言葉たちの訪れによるもの。書き溜めることの喜びと書かずにはいられない衝動とが一体となって、その都度私は”内なる詩”と出会っていた気がする。
タイトルに「連作・志摩」とあるのは、詩編の多くが志摩半島に関するものであり、そこでの生活が基となっているからである。年中柔らかな光に覆われた半島の隅々を、目に見えないものたち、摑み得ないものたちが絶えず通り過ぎる。その瞬間、光はなにか生き生きした、そして艶めかしいものとなって私の身体にまといつく。土地の光や空気は私にとって、半島でのもうひとつの衣服のようなものであった。
その衣服を着てこの詩集と向き合うとき、半島の鳥の羽ばたき、小さな植物たちも一緒に輝く。(「後記」より)
目次
Ⅰ 志摩 春から夏へ
Ⅱ ネヴァー・ネヴァーランド
- 猫くらいの愛
- 春の挨拶――Yへ
- ぐずついた一日
- 帰り道
- 台所の海
- トウキョウガホロビテモ
- 遠い窓辺
- 昔、アカシア
- 夜の鳥図譜
- 名の生誕
- メノウ――水の夢
- ルーシーの青空――サイレンス
- 死都ブリュージュの水
- どこにも閉じたところがない夜に
- 呼び交わすもの
- ネヴァー・ネヴァーランド
Ⅲ 志摩 秋からひかりへ
- 崖
- リアス・リアス
- まぼろしの馬
- 秋のうた
- 渡りのものへ
- カラスの巣の下で
- R=残酷な食卓
- 貝の奈落
- その種族
- 海への供物
- 冬の旅
- 虚無の岸辺はどこまでも
- 鳥を呼ぶ日
- ある夜の音楽
- 母は舟のように
- 金色の午後のこと
書評
稲葉真弓さんのご逝去を悼んで(詩集『連作・志摩 ひかりへの旅』評)文月悠光
稲葉真弓氏の遺稿詩集、震災犠牲者へ祈り(日本経済新聞)