林喜芳詩集

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 1986年11月、摩耶出版社から刊行された林喜芳(はやしきよし)の詩集。編者は松尾茂夫。刊行時の住所は神戸市兵庫区馬場町

 

 林喜芳さんの第一詩集『露天商人の歌』は一九五八年私家版百部の発行である。ごく限られた範囲の詩友や知己に配られたようだが、当時の月刊詩誌「現代詩」が翌年四月号に全篇転載して紹介し、当時学生だった私自身もその誌上ではじめて、同じ街に住む林喜芳の存在を知った。
 あれからもう四半世紀を越える歳月が過ぎた。林さんとは、その歳月のどのあたりで、面識を得、親しくなったのか思い出せない。とにかくもうかなりの年月、林さんは私にとって身近な存在であったような気がしている。
 今春、現在つづけている連載エッセイの一環として、私は林喜芳小論を書くことを思い立ち、ご本人から手持ちの同人誌「藁」「少年」の全巻と分厚いスクラップブックニ冊を借りて読んだ。
 エッセイを書き上げ、資料を返しにいったとき、私はこれらの資料を整理して自選詩集を編むことをすすめた。林さんの答えは、これだけ雑然とした永年にわたる作品群を自分自身では選びようがない。むしろ他人の目で君が編集してくれるのなら……ということだった。
 仲間の三宅武と相談した結果、摩耶出版社のはじめての自主企画本として本書を出版することになった。作者の林さん本人にとっては、立派な装丁の本がいいにはきまっているが、私たちの目的はいまや幻の詩集になってしまっている『露天商人の歌』(正続)とそれ以後今日にいたる林喜芳の詩業の大筋をまとめ、できるだけ多くの人たちに読んでもらうことである。われわれの労力を提供しても、なるべく廉価でだれもが手に取りやすい本にしたいと考え、ご覧のような詩集になった。
 収録作品については、『露天商人の歌』『続露天商人の歌』の全篇と、この二冊にもれている露天商にかかわる作品数篇をえらんで、『続露天商人の歌』の末尾に付した。
 四、五部は作者が露天商人をやめて、印刷所の営業係とWして十五年余勤務した時代の作品と退職後現在にいたるものという風におおざっぱに分けた。発表順位には忠実でない。収録作品はこの時期に書かれたものの約半数である。 初出は明示しなかったが、発表誌は「藁」「少年」「手帖」「半どん」「現代詩神戸」「大阪手帖」「浮標」「兵庫のペン」などである。
 近年、『わいらの新開地』『香具師風景走馬灯』『神戸文芸雑兵物語』と矢継ぎばやに三冊のエッセイ集を刊行して、林喜芳はエッセイストとしての評価を得たが、その上にこの詩集を加えることで、氏の文芸の全容がより明確になることを願っている。
(「編者のことば あとがきにかえて/松尾茂夫」より)

 

目次

Ⅰ 露天商人の歌

  • あるお客さんに
  • 足を見てくらす毎日
  • 照る日もあれば くもる日もある
  • 砂漠をあるく日々
  • いやな季節
  • なんのこともない一日
  • 詩にならぬ商売
  • くさる日の詩
  • 古本を売ってみる
  • たいくつな日
  • はじめて夜店にでる
  • 露天商人になれるか

Ⅱ 続 露天商人の歌

  • 足うらの如き顔
  • やれやれ人生
  • もの言えば唇さむい
  • 雨にやられる
  • 地べたの生活
  • この風景
  • 坐ってるる考え
  • 大人のオモチャ
  • 阪急電車
  • うすぐらい太陽の下で
  • 或る日、休んで
  • 算数は正確でない
  • にがい現実
  • 終焉記

Ⅲ 消えない声の詩

  • ・大正10年 川崎・三菱造船争議
  • 1地べたに耳つけて
  • 2よせかえす浪はしぶいて
  • 3敗北理非

Ⅳ わがネクタイ 

  • 枯れた名刺
  • わがネクタイ
  • 沈澱
  • 水虫
  • 狐の世界
  • 素粒
  • けだものみち
  • つめたい汗
  • 吾 新居ニ住ムヲ得タリ
  • 喪の眸
  • 邂逅
  • 日日懶惰
  • 五月
  • 少年 
  • あぶれっぱなしの空

Ⅴ たばこのけむり

  • 西大寺四天王堂邪鬼
  • 湊川神社
  • 工場廃棄物
  • 不要な眼
  • たばこのけむり
  • たばこのけむり
  • 老残日誌より
  • 空席
  • あとのまつり
  • めぐりあい

林喜芳年譜 三宅武作成

編者のことば―あとがきにかえて 松尾茂夫

 

 

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