1953年7月、私家版として刊行された伊達温の詩集。
伊達温さん。一昨年の某日、僕の旧友が来てしきりにあなたの話をした。彼はオンちゃんオンちゃんと呼んでいた。彼のこどもは、小学校であなたに教わつていたのだ。それから間もなくあなたは僕を訪ねて来た。僕はダテユタカさんを初めて識つた。僕はすぐあなたが好きになつた。言葉すくなに、はにかみながら語るひとであつた。
あなたはよく教え子の詩を一冊の本にまとめては僕に見せてくれた。みな自分で印刷し製本されたものであつた。熱心な丹念なひとだとそのつど僕は心に思つた。その後僕は優しい兄のように教え子から甘えられているあなたをしばしば見たものです。
伊達温さん。僕はあなたの恋愛にまで立入つたことがある。あなたのために、僕は友人と二人であなたの恋人のうちを訪問した。あなたはそのとき門から中へははいらずに、傍らの石に腰かけて私たちの交渉の結果を待つていた。その晩春の、濃い醤油色の夜を今でもあなたは忘れないにちがいない。悲しい結果に終つたのだからなおさらに。
伊達温さん。詩集「路傍の歌」にはそういうあなたの人柄が滲み出ていると思います。いわばうひうひしい含羞の歌である。ときに老成ぶつたようなうたいぶりもそのあらわれの一つだと思う。近時流行の詩とは違つた。素直な、気持のいゝ感銘を受けるゆえんです。
伊達温さん。僕も亦、いつも詩とその作者の人柄を結びつける、古風な考えを持つ者の一人です。僕はあなたの誠実が現代詩の形の上でさらに美しく発光するのを待ちたいと思います。
昭和二十八年夏 木下夕爾
(「「路傍の歌」の詩人に」より)
目次
「路傍の歌」の詩人に 木下夕爾
- 路傍の歌
- 吐喝喇の島
- 路傍(一)
- 路傍 (二)
- 路傍(三)
- 圓柱のことば
- 山頂(一)
- 山頂(二)
- 笑い
- 秋風よ
- 御堂筋
- 波
- 冬日閑居
- 秋
- 惜春
- 鱗雲泛く日
- 神に
- いさかい
- 現世
- 朝
- 某日
- 春
- 残してきたもの
- 朝
- 断層
- 街角
- 径
- 邂逅
- 断章
- 朝
- 俄雨
- 時計草
- 袂別
- うつろなゾーン
- 落日
- 春の貌
- 母
- 燎原
- 荒布飯
- いもじようちゆう
- 一里塚
- 一里塚(一)
- 一里塚(二)
- 一里塚(三)
- 一里塚(四)
- 一里塚(五)
- 一里塚(六)
- 一里塚(七)
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