1964年9月、新星書房から刊行された森岡貞香(1916~2009)の第3歌集。著者は松江市生まれ。
本集は「白蛾」「未知」につづく一九五六年秋から一九六四年春に至る作品集です。
八年間の作品の出生をひとつひとつ問いただすようにして改めていつた時、怖さとその見きわめのむづかしさしさに目をつぶつてしまうこともしばしばでした。とりあつめられると負数に片よりがちになるわたくしのうたながら、そそがれるあたたかなまなざしのあることは、このような時大きな力を持たせてくれますものの、またこの集がそのまなざしにいくばく応え得られるであろうかと泪のごときものがあります。
「甃」の名はいま、北京の天壇の石だたみが美しかつたと思い起しますが、といつてそれによつたということではなくて、世のさまざまな石だたみのもつ美しさと、歴史の現実、甃という字のもつうつくしさ、それらがながく心にあって決まったのでした。
なお、第一歌集の「白蛾」は第二書房の伊藤禱一氏が、前歌集「未知」については今は亡きユリイカの伊達得夫さん。本集は新星書房の伊藤幸子さんが、いづれも刊行のことを運んでくださったものでしあわせに思うことです。 一九六四年三月 森岡貞香
(「後記」より)
目次
・日覆ひ 一九五六年――九五八年
- 瀝青
- 日覆ひ
- 鏤め
- じゃがいもの花
- 山の音
- 傷み川
- みづうみ
- 寂しき夏
- 星を走らせて
- をみなの髪
- 声
・甃 一九五七年
- 北京
- 望楼
- 眼
- 西冷
- 大河
- 橋
・周剣 一九五九年――一九六〇年
- 冬の園
- 瘦野
- 周剣
- 黒白の段丘
- 土
- つはぶきの黄花
- 暈
- 豆の木
- 黒き胸びれ
・耳と時間 一九六一年―——一九六二年
- 夜の庭
- 惑星間
- 耳と時間
- 黒味
- 薄雪降る
- ひよめき
- 黒菱
- 髪のなかの手
- 顔と顔
- 風地図
- 母の錘
- 都市の燈火
・門 一九六二年——―一九六四年
- 歓
- あまるべ
- 霧
- 焦げし背
- 昨日のなかに
- 門
- かうもり
- 或る日に
- 烈しき影
- 乳の匙
- 影と風
後記