1995年8月、夢人館から刊行された徳弘康代(1960~)の詩集。装幀は直井和夫。
横浜の紅葉坂を上ったあたりに住んでいました。毎朝帆船のマストと切れ切れの港を見ながら、桜木町へ続く石畳の坂を下りて行っていました。
一九八八年の夏、横浜を離れ中国東北の都市瀋陽へ行き、古い医科大学で語学講師をしました。その間に中国では改革開放政策の下、天安門事件が起こり事件の前後の混乱を学生たちと過ごすことになりました。その後上海へ移り、日々膨らみ続けていく大都市の中でしばらく暮らし、街で人々が政治の話をしなくなって、代わりにそろってお金に向かい始めたころ上海を出てオーストラリアへ行き、そこで一年いて、一九九二年の秋に横浜へ帰ってきました。
戻ってみると紅葉坂の下の埋立地には帆船の横に巨大なビルが建っていました。日本の好景気もその後の崩壊も知らず、時折外国語に聞こえる日本語の中で茫然としているうちにいつの間にか三年が過ぎてしまって、もうすっかり日本語の中で心地よく生活できるようになったのですが、今も風向きや光線や湿度の具合で、脈絡なく突然、あの土地のイメージが現われ、そこで会った人たちのことをとてもなつかしく思い出します。
これらの詩は中国にいた三年間に書いたものです。海外で会った方々、詩集を作ってくださった方々、この本を手に取ってくださった方々に心から感謝いたします。
(「あとがき」より)
目次
- 上海
- 冬の旅游
- 長城
- 観覧車
- 一九九〇年一月・横浜
- 題名
- 通夜
- Da lian 大連
- 桜花
- 木と対峙する人
- 村
- 泰山
- あなたが戻らないということを
- 午餐
- 私はあの少年のことをくり返し書こうと思う
- 呼吸
- 友
あとがき
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