不帰郷 黒田喜夫詩集

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 1979年4月、思潮社から刊行された黒田喜夫(1926~1984)の第4詩集。挿画は若林奮(1936~2003)、装幀は田辺輝男。

 

《言葉》のあとに――あとがきに代えて

言葉なき原野 そして
そこからの幻野
言葉なく原野はわが故郷であり
しかも現(うつつ)になにごとか
悶えながら生きる野だ
そこに言葉ないままの死者があり
死者を知らず 死者を見得ぬ言葉があり
死者のすがたを糧にして自己を展ばす
詩の自由がある
それは幻野であり
言葉なき原野だ
それはわが故郷であり
現に生きる領だ そこで
私は言葉なき類のものであり
この意識だけがみずからに
言葉を予兆し孕むと覚えるものだ
言葉なき原野
ここで私は死者であり
私はもはや死者ではない
この分裂にたち
そこに架かり
この了解しつつ許容し得ない存在の
裂け目をうめる全体にむかい為すことが
ひとりの言葉の孕みであり
ひとりの現存である
刃むかうゆくての国家と価値をまとう
その偽自然 それは
言葉なき原野の自然とみまがう支配の
天蓋をなすものであり
言葉なき原野はわれわれの故郷だ
わが言葉の孕みは
それに刃むかう民である一人の
痛みめざめる現存である
………………

 
目次

  • 夜の兵士たちへ
  • 夕暮の前に
  • 皮膚の叫び
  • 不帰郷
  • 葦の湿原(さろべつ)のかなた
  • 原野へ
  • 深傷への眠り
  • 四月に
  • 断声
  • 黙秘


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