2002年12月、花神社から刊行された池谷敦子(1929~)の第6詩集。挿画は己斐みどり。
「おせわをかけていますが、女房はいったいどこへ行ったんでしょう」ときくから「私が女房でしょ」と答えると「ちがう、こんな年寄りじゃない」と言ったんですよ。
この告白ほど近頃受けた話はない。みんな一秒ほど私の顔を打ち眺め爆笑する。私もほどける。(あなたはいつも、ありがとうと口に出して言ってくれる人だった……)
在宅介護に行き詰まり老人病院に入ってもらった時、これで決まりと思ったのではない。これしか選択肢はなかった。四ヶ月がたった今は少くとも在宅の日々より夫は落着いている。
ある日、街かどのガラスに映ったわが姿に愕然、まさかと訝るほどに老いかがまっている。これが今の自分の心のかたちでもあるか。呆けた夫は、単に正直に視ていたのであった。そんなわけで、ともすれば崩れていこうとする自分を支えるために、新旧とりまぜて『夜伽』と致しました。これからの私が何とか生きていくためのきっかけとなればと願いながら。(「あとがきに代えて」より)
目次
I
- 水の音
- じる氏
- 0氏のいきさつ
- 楤の芽を摘む人
- 「みなと屋」の雨
- 牛の国
- 沈む島
- さむ氏
Ⅱ
- 山百合
- 犇めく
- 枇杷
- 月を汲む
- はしご
- 藍甕
- 声、蝉の
- グフ グフグフ
Ⅲ
- 三月
- 無花果
- 傾く町
- 晴れた朝に
- オールド・ローズ
- 猿
- 触角
- はぐれ凧
- ゴケの実
あとがきに代えて