1966年11月、思潮社から刊行された北村太郎(1922~1992)の第1詩集。装幀は粟津潔(1929~2009)。解説は鮎川信夫(1920~1986)。
北村太郎とはじめて知合いになったのは、一九三八年の十月頃だったらしい。十月十六日の日記に唐突に彼の名前が出てきており、十月十九日に「LEBEL」十七輯の批評が書いてあって、その中で彼の、「Bohemian Chanson」にふれている。曰く、これは単なるイマージュを通り起こして意味にせまった複合性を獲得している。この感覚的な悒鬱性の青光りのする暗さは、よく了解出来る性質ものものである。云々」
以来、私は三十年近くも彼の詩とつき合ってきたことになる。
もっとも、本格的なつき合いということになると、この詩集の巻頭詩「墓地の人」からということになるだろうか。これまで書いた試論でも、比較的多く彼の詩にふれてきたように思う。
しかし、こうして彼の代表的な詩を集めて一冊の詩集に編まれたものを前にすると、言うべき多くのことがありながら、ちょっと言葉につまってしまう。
何から書いたらいいだろう。彼の詩は、いわゆる難解な詩ではない。が、一読卒然とわかってしまうといった類の詩でもない。
特に解説など必要としない詩であるけれども、また、いくら解説してもわからないところもあって、批評する人間にとっては、いわばその未開の心の領域が興味の中核になる。北村太郎の詩は、奥深い固有の心の領域を持っているという意味で、私には特別である。(「解説」より)
目次
1
- 墓地の人
- 微光
- センチメンタル・ジャーニー
- センチメンタル・ジャーニー
- 雨
2
- 毒麦 ゴッホに
- Pride and Prejudice またはやさしい人
- 地の人 失業者の独唱・一九五一年
- 庭
3
終りのない始まり
- 1―いま、何時?
- 2―骨をひろう人たちよ
- 3―土くれを一握り
- 4―ウイスキーか、ジンを…
4
- センチメンタル・ジャーニー
- 黒いこびと
- 小詩集
- 1―部屋に入って…
- 2―五月はみがかれた緑の…
- 3―夜
- 4―冬の寂しい町
- ちいさな瞳
- 小さな街の見える駅
- ヨコハマ 一九六〇年夏
5
- おそろしい夕方
- 鳥
- 朝の鏡
- 存在
- ある墓標銘
- 冬へ
解説 鮎川信夫