崩れ去る大地に 真木桂之助

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 1959年2月、現代社から刊行された真木桂之助(1928~)の作品集。装幀は難波淳郎。表題作は第2回農民文学賞受賞作品。著者は新潟県新発田市生まれ、本名高沢正樹、刊行時の職業は新潟日報記者。のちにラジオ新潟社長。

 

 あえて農民といわなくとも、この現代の負っている重みを、われわれはどのように受け止めようとするか、私は「崩れ去る大地に」のなかで、農民たちに設定したある状況により考えてみようとした。
 人間は、そこに押し込められた自然と政治との圧力のため、殆ど(生きて)いられない。自分たちを取り巻くすべてを、運命と見ねばならない暮しは、もはや生きているとは云い難いが、人々はそこから逃れる事さえ思いつかない程あえいでいる。この喘ぎを、幾人かの姿をかりて書き、農民文学賞を得た。しかし、あえいでいるところから何としてでも抜け出たく、幾つかの試作のあと「雲の湧く谷間」にとりかかった。このなかでは(行動)が書きたかった。現実を馬蹄にかけて疾駆する女性と、彼女が描くクッキリした世界を求めていた。
 材は農民にとっているが、私はその人々の意志を壁にぶちあてて炸裂させただけであり、描きたかったのは(農事)ではない。
 それにしても、現実がそのように蹴とばせるものかどうか。自分でも蹴倒せたとは思っていない。
 この作品に限らず、書くだけ相手の堅固さを思い知らされる。そのことの証明をしている気さえする。
 しかし、前へ進むことしか許されていないし、それが自分の文学だと考えたい。問題は今後にあるが、ともあれ、こうした出発点を与えられた伊藤永之介氏はじめ農民文学会の方々、今まで励まして頂いた丹羽文雄氏とこの書を推して下さった諸家、そして現代社の枝見社長とプロデューサーとしての興梠哲夫氏に、心からの感謝を捧げる。
(「あとがき」より) 

 


目次

序 伊藤永之介

  • 崩れ去る大地に
  • 雲の湧く谷間

あとがき

 

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