1958年5月、東京創元社から刊行された谷川俊太郎選集。装幀は花森安治、解説は長谷川四郎。『二十億光年の孤独』『六十二のソネット』『愛について』収録詩篇で構成。以下、長谷川四郎の解説から引用。
谷川俊太郎の子供の時を私は知っている、というより、通りすがりにちらりと見たことがある、彼はほかの子供たちと一しょに道ばたで遊んでいた、子供たちはみなおもちゃをもっていたが、彼のもっているのは一本の竹の棒だった、彼はその竹の棒を空の方へつきたててささげもち、その先端の方を見上げながら、バネ仕掛けのような足取りで歩いていた、そして即興の歌をうたっていた。
ぼくの人形は天までとどく
あんまり高くて顔がみえない
…これは私のフィクションである、ただ、子供の時の谷川俊太郎を見たことのあることは事実だ、その時の彼は父親と母親のそばでお菓子を食べかけていた、それからほとんど十数年近い歳月をへて、私がまたその場所へきてみると、彼は一個の詩人になっていたのである、彼はいった。
いろいろの荷物は肩に重く
電車も時々ゆれもしますが
みんなおんなじ道連れなのだと
只 この線路のみが幸福なのだと
みんなが思えば
こんな大きく重い電車も
みんなの思いで
だんだん明るい風景の方へ
運転出来ると僕はほんとに信じています