鳥屋の家族 木村恵子詩集

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 1980年3月、VAN書房から刊行された木村恵子(1954~)の第4詩集。

 

 富士正晴氏の奥の細道の古典解釈をよんでいたら、夏河を越すうれしさよ手に草履、と蕪村の句のことにもふれ、俳句の解釈も世情がこう変化はげしくては中々むづかしい、手にサンダルではねえ、とユーモラスな口調である。私は、ふと傍の娘(木村恵子)にやはり草履でないとこの場合、まずいだろうなときいてみた。娘は不意に富士さんて面白い方ね、と大声を出して笑った。別に好いとも悪いとも言わない。私は内心これは困ったと思った。しかしすぐになるほどと肯づいた。詩とはそんなものかと発見した。この場合、草履とサンダルの良否が問題ではない、その解釈の見方の発想が方法が問題なのである。ずっと以前、娘が未だ小学生の頃、二人で街を散歩していて、花屋さんの前にくると、お父さん、花屋さんもいいけれど、花は買うのは楽しいけど、花を売るのは大変ねと、私に言ったことがある。私はその時、うつくしい花の一杯ある花屋の前でそんなことを想っている幼い娘の心を驚きの昨で眺めた。こんど娘の四冊目の詩集をよんで、作品「鳥屋の家族」の寓話性にひそむ詩的宇宙が、その後にでてくる「赤い夏」の母と少年の心理の葛藤や「親展」の銀閣寺の山門まえで寝袋にくるまる少年に、自然の流れとなって定着しつつあるのをみ、又「旅ごろも」の章で私も好きな京都や萩の町の自然をまえにした娘の心象スナップを、青春からかえって剥奪された青春のせつない渇望の讃歌として、その成長は人間個有の原体験への熱い復帰への意志といよいよ深く結びついてゆくようであった。
(木村孝)


目次

 

Ⅰ鳥屋の家族

  • あおりんご
  • 鳥屋の家族
  • 親展
  • 風炎の塔
  • 積木
  • 店舗
  • チベットの空に
  • 薰風
  • 長楽寺
  • 新宿酔態
  • くれない
  • 路地
  • 迎春
  • 残暑
  • 春雷
  • 龍馬と鳩
  • 春泥
  • ざくろ
  • 鳳仙花
  • 浅草・二の酉
  • 松風
  • ひざを抱えて
  • 赤い夏
  • セプテンバー

Ⅱ旅ごろも

  • 飛騨高山・ひとり旅
  • 京の夜
  • 京都・馬町
  • 化野・平野屋
  • 高野深夜
  • 宗谷岬にて
  • 萩をゆく
  • 奥日光
  • 余呉
  • 故郷の海が碧いころ

良き青春の彷徨 今辻和典
あとがき 伴勇


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