1967年9月、大光社から刊行された長篠康一郎(1926~2007)による山崎富栄(1919~1948)の評伝。刊行時の著者の職業は雅叙園勤務。
山崎富栄が自らその若き生命を玉川上水に投じてから、もう二十年に近くなります。この間、太宰治の作品は年毎に多くの若人に愛好され、いまや確固たる地歩が築かれつつありますが、そのきらめく栄光のかげに、不遇な時代の太宰に献身的に尽し、励ましつづけた多くの方々は、いまどのようにあつかわれているでしょうか。女性なるがゆえに、文筆家という味方を持たないが故に、真実をゆがめられ、偏見を以てみられているというようなことはなかったでしょうか。そのような意味からも、太宰文学の完成に美しく哀しい犠牲となられた方々を、富栄の遺した日記を主体としながら、出来るだけ正確に復元してみようと努めてみました。筆者生来愚鈍なるがため、感情のみ先走っていたずらに空転するばかり、充分に意の尽せなかったことをむとともに、ただもう三年早く踏査を開始していれば、より貴重な資料を散伏させずに済んだであろうにと、残念でなりません。
茲に謹んで本書を山崎富栄の霊前に捧げ、その御冥福を心より祈念いたします。一九六七年 初夏
長篠康一郎(「はじめに」より)
目次
長篠康一郎君のこと 山岸外史
まえがき
第一部 山崎富栄抄伝
第一章 人とその生涯
- 一 山崎富栄
- 二 太宰治
第二章 愛と死の日記抄
- 一 優しく寂しいひと
第三章 犠牲
- 一 禍害なる学者
- 二 苦悩の能力
- 三 虐げられる人
第四章 伝説と偏見
第五章 行為と真実
- 一 家郷追放
- 二 抵抗と挫折
- 三 銅貨の復讐
- 四 良妻愚夫
- 五 心のうつる鏡
- 六 爪のない野獣
- 七 涙の谷の人々
- 八 勝利の文学
- 九 麻薬と良薬
- 十 美しき犠牲を
- 十一 行為と真実.
第二部 山崎富栄抄伝おぼえがき
- 一 揺籃時代
- 二 一歩前進二歩後退
- 三 最盛と終焉
- 四 きらめく栄光のかげに
山崎家・太田家・小山家・津島家家系略図
あとがき
NDLで検索
Amazonで検索
日本の古本屋で検索
ヤフオクで検索