2002年10月、思潮社から刊行された谷川俊太郎(1931~)の二ヶ国語詩集。翻訳はWilliam.I.Elliot/川村和夫。装幀は芦澤泰偉。
何年か前、しばらく詩から遠ざかりたいと思ったことがあった。詩を書くことに行き詰まったのではなく、反対にあまりにイージーに詩を書いてしまう自分、現実を詩の視線でしか見られなくなっている自分に嫌気がさしたと言えばいいのだろうか。長く詩を書き続けてきた人間を襲う、職業病のようなものかもしれない。
それでも注文があればぼちぼち晝いていたし、故辻征夫の誘いにのって「余白句会」に遊びに行くようになったのも、それまで反発していた俳句という短い詩形に、いわゆる現代詩とは違う現実への通路を見つけられるのではないかという期待があったからだろう。だが、書いているうちに、この詩形は自分にはいくらなんでも短すぎると思うようになった。
その間に中国へ行く機会があった。呑気な旅のつれづれから、いくつかの予期しない短詩が生まれた。俳句とそれからもしかするとある種の漢詩のもつ、饒舌とは対極にあるものに、知らず知らずのうちに同調していたのだろうか。帰ってからも私は行脚の短い、三行一連の詩を気の向くままに書き続け、いつの間にかそれらをminimalと名づけていた。
(「あとがき」より)
目次
I
- 襤褸 Rag
- 小憩 A Brief Repose
- 部屋 A Room
- 拒む To Reject
- 手足 Hands and Feet
- 座る Sitting
- 影法師 A Shadow
- そして And
- あるがまま Things As They Are
- 葉書 A Postcard
Ⅱ
- 水 Water
- 嘆く I Lament
- 夜 Night
- 静物 A Still Life
- 窓 Windows
- 歌 A Song
- 真昼 In Broad Daylight
- 小石 A Pebble
- 顔 A Face
- 羊水 Amniotic Fluid
Ⅲ
- ふふふ Chuckling
- 寝床 A Bed
- 私 I
- 血 Blood
- ひと日 A Day
- 味 Taste
- 冬 Winter
- 泥 Mud
- 花弁 Petals
- こうして Like This
あとがき