1989年12月、編集工房ノアから刊行された宇田良子(1928~2019)の第3詩集。近江詩人会会員。刊行時の住所は滋賀県彦根市本町。
子育てがおわり、さて二人の娘を結婚させる段になって、予想とはずれた方向に、否応ない将来が見えてきました。そのころから少しずつ書きためた内容が、この『堀のうち』となりました。
戦後、ふるさとである彦根市に帰ってきたものの、私には常に中途編入者の思いがあり、いまひとつなじめぬままでいましたが、娘への相続を断とうという決断のあたりから、彦根市が「わが終の栖」と思えだしました。と同時に、心の安らぎも得るようになり、この古い町が何かしら、いとおしくなってきたから妙なものです。
いまの職業には長らくたずさわってきましたので、誰にも見すかされたくない自分の内面や、人の目にさらされたくないこの商売の裏面など、それでも、ごく押えた形で表わしたいところがあるいは舌たらずであったり、あるいは開きなおりにすぎたりして、まことに吐泥とした思いでいます。
ただただ、わかり易い言葉で、読者によく理解され、あと一あじ、いささかのまことしやかさを添えて、というのが願望でしたが、果してその域まで及んでいるものかどうか、不安でなりません。
この詩集を出すにあたり、いろいろな方のお世話になりました。第一に、私の周辺の事情を理解していただいて、親切な解説を下さった、畏友の大野新さん。前回の『窓』にひきつづき、感謝しております。(裏話をしますと『堀のうち』の題名は、大野さんと奥さんと私との話のあいまに出た言葉でした。)
第二に、近江詩人会の先輩や会員のみなさん方。毎月の、アメとムチのうれしいご批評がなければ、私はとっくに詩の座からおりていたでしょう。
第三に心よく出版をひきうけてくださった「編集工房ノア」の涸沢純平様。
この稿を書きながら、私に詩との対話を教えて下さった、今は鬼籍に入られた大先輩の方々のお顔が眼前にちらついてなりません。ありがとうございました。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 月
- 夜のさくら
- 雇う
- 男
- 葬宴
- お見合い
- 夕映えのころ
- 昼さがり
- 寒の入り
- 冬へ
- 松之内
- ご対面
Ⅱ
- むくげ(一)
- むくげ(二)
- 家
- 風の中の食卓
- 暑い鍼
- 梅干し
- 死人花
- 道
- からす
『堀のうち』解題 大野新
あとがき
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