文芸随想 古木鐵太郎

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 1982年9月、私家版として刊行された古木鐵太郎(1899~1954)の随筆集。発行は長男の古木春哉。題字は中谷孝雄。

 

 本書は、著者の小説以外の文章七十四編を収めた。この他に、内容が重複していると見られる四編と、所在は知られながら入手できなかった二編とは、この際省くことにした。まだ筆者に知られていない文章もあるのかも分からない。
 執筆乃至発表時について分かっている年をそれぞれの文末に付した。大正十三年から死亡直前の昭和二十九年にまで及んでいる。しかし初出の雑誌、新聞については誌紙名ともに目下殆ど不明になっている。従ってそのすべてについて今は記さないことにした。ただし編中の「立秋の記」「ある理髪師の話」「日誌」「病床雑記」の四編は未発表の文章である。
 さて、本書は編中から「文芸随想」を採って書名にした。筆者は今度初めてこの大部分の文章を読んだのであるが、それが全体の内容に最も相応しいと思ったからである。著者には小説集『紅いノート』『折舟』『葉桜』『仲秋』等があるが、その文学的思想、心情をこの『文芸随想』によって一層理解しやすくなるのではないかと思う。詳説は他日に俟たなければならないが、今端的に言って、著者には一方に風景乃至自然の美に対する耽溺と、他方に故里への郷愁がある。そしてこれら二様の感情のよってくるところは、熾烈な愛惜乃至哀惜の情熱であるという点に臆測しなければならない明瞭な文学的思想、心情の特色が現れる。思うにこの様な情熱とは、著者の階級没落の意識が選択した悲劇的宿命なのであり、小説に於て平淡な叙述の根抵に隠されているそれが、この『文芸随想』では可なり露骨に表現されている。本書の刊行によって識者に資するところがあれば、筆者には望外の喜びである。
(「編集後記」より) 

 

目次

・随筆

  • 春浅く
  • 日光湯本にて
  • 野方にて
  • 六月燈の思ひ出
  • あちこちの秋
  • 昨日のこと
  • メダカ
  • 焚火
  • T先生
  • 橋の上
  • 犬嫌ひの随筆
  • わが窓辺にて
  • 移りゆく武蔵野
  • 秋風! 故郷の山川
  • 路上
  • 立秋の記
  • 晩秋郊外
  • 病院のある風景
  • 新春随想
  • 早春
  • 犬の出世
  • 初夏散策
  • 烏瓜をもらふ
  • 武蔵野の新春
  • 霧島と桜島
  • 回想断片
  • 練馬方面
  • 妙正寺
  • 鷺宮
  • 春の日
  • 庭の便り
  • ある特務兵の話
  • 出征兵の子
  • 七夕祭
  • 子を描く
  • 黄菊
  • 秋怨の記
  • 林の中で
  • 強雨寸景
  • わが畠の記
  • 海軍魂
  • 散歩に出て馬を見るの記
  • ある理髪師の話

・日記

  • 日誌
  • 病床雜記

・文芸随想

  • 文学的な思ひ出
  • 葛西さんのこと
  • 文学日記
  • 思ひ出
  • 感想
  • 文芸随想(一)
  • 文芸随想(二)
  • 作家の感想
  • 最近読んだものから
  • 呑気な感想
  • 三月作品評
  • 中島君
  • 夏の作家二人
  • 横光利一氏の文章
  • アンドレ・ジッドの魅力
  • 巨匠の言葉
  • 武者小路實篤氏

・作家印象記

・評論

編集後記 古木春哉

 

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