短篇歳時記 森内俊雄

 1999年10月、講談社から刊行された森内俊雄(1936~)の短編小説集。装幀は菊地信義、扉画は佐々木壮六。各小説の表題選句は遠藤若狭男。

 

目次

・春

  • 元日のもう外灯のっくけはひ 村山秀雄
  • 初夢の盲となりて泣きにけり 秋元不死男
  • 公魚をさみしき顔となりて喰ふ 草間時彦
  • ひとり寝ろ山を焼く火を見て帰り 鈴木六林男
  • 白梅のうしろの枯の極むなり 黛執
  • 母の死や枝の先まで梅の花 永田耕衣
  • 寒明けの星のこぼせる土赤く 木下夕爾
  • 春寒や逃げてふりむくけものの眼 池田初江
  • 余りたる時間あたたかなりしかな 後藤比奈夫
  • 春登といふ大いなる空虚の中 富安風生
  • 春の砂丘未来あたりの起伏せり 今瀬剛一
  • 水草生ふ水深きこと かなしまず 山口青邨
  • 少年に空飛ぶ夢や春の山 大串章
  • ゆふぐれのしづかな雨や水草生ふ 日野草城
  • 砂山を下りて遅日の果てにけり 文挾夫佐恵
  • 亡者来よ桜の下の昼外燈 西東三鬼
  • 口ごたへすまじと思ふ木瓜の花 星野立子
  • 復活祭蜜蜂は蜜ささげ飛ぶ 石田あき子
  • 陸橋を渡るひとりに春の月 村田脩
  • ゆで玉子むけば かがやく花曇 中村汀女
  • 梢揺るるなり揺るるなり芽吹くらし 篠崎圭介
  • 春昼やひとり声出す魔法壜 鷹羽狩行
  • うすかりし春の虹なり消えにけり 五十嵐播水
  • さくら散る人声触れしところより 三木蒼生
  • 摘草の遠くの人のみずなりぬ 倉田紘文
  • 花過ぎし梢は鬱をふかめけり 山口草堂

・夏

  • 夏あさきゆふべの空のいろなりけり 安住敦
  • 朴の花しばらくありて風渡る 高野素十
  • 冬の花折りもちてほの暗し 後藤夜半
  • 硝子屋の硝子にはやも夏きざす 檜紀代
  • 地は木々の洩れ日ちりばめ聖五月 木內怜子
  • 捩花のまことねぢれてゐたるかな 草間時彦
  • 文字摺草紅にじまずに雨の中 山口速
  • 青梅の最も青き時の旅 細見綾子
  • 紫陽花の蔭に目があり見ればなし 加藤楸邨
  • 黴の世の黴も生きとし生けるもの 鷹羽狩行
  • 饒舌のあとのさびしさ桜桃忌 遠藤若狭男
  • 明日もまた人間嫌ひ蛍籠 石寒太
  • 夾竹桃しんかんたるに人をにくむ 加藤楸邨
  • 衣をぬぎし闇のあなたにあやめ咲く 桂信子
  • 黙殺のあとの一笑花ざくろ 鷹羽狩行
  • 梅雨めくや人にまさをき旅路あり 相馬遷子
  • 世を隔て人を隔てゝ梅雨に入る 高野素十
  • くらがりへ目のとどきたる柿の花 岸田稚魚
  • 二階より見えて夜明の夾竹桃 菖蒲あや
  • 手にふれし汗の乳房は冷たかり 野見山朱鳥
  • 浅草の暮れかかりたるビールかな 石田郷子
  • 焼酎に死の淵見ゆるまで酔ふか 小林康治
  • 短夜の色なき夢を見て覚めし 西島麦南
  • わが影の中に五つも蟻地獄 今瀬剛一
  • まつくらな山見て鱧の洗ひかな 住田榮次郎
  • 少年に樺の森かぎりなくあをし 木下夕爾
  • 夏終る人形の浮く船溜り 伊藤トキノ

・秋

  • 白桃を剝くねむごろに今日終る 角川源義
  • ふれあひて水引草も世も淡し 中嶋秀子
  • 秋づくと昆虫の翅想はるる 石田波郷
  • 桐一葉落ちて心に横たわる 渡辺白泉
  • 立秋の鏡冷き厚みあり 殿村菟絲子
  • あてどなくまたあるごとく秋の蝶 鈴木伊都子
  • いなびかり北よりすれば北を見る 橋本多佳子
  • ふるさとや馬追鳴ける風の中 水原秋櫻子
  • こときれてなほ邯鄲のうすみどり 富安風生
  • 窓際に二百十日の細身の椅子 桂信子
  • 黒揚羽九月の樹間透きとほり 飯田龍太
  • ひとり膝を抱けば秋風また秋風 山口誓子
  • 滝冷やか生きて濁りてゆく眼には 平畑静塔
  • 秋暁や胸に明けゆくものの影 加藤楸邨
  • 水といふ水澄むいまをもの狂ひ 上田五千石
  • 秋の雨しづかに午前をはりけり 日野草城
  • 渡り鳥仰ぎ仰いでよろめきぬ 松本たかし
  • コスモスやこの世かの世と晴れ交し 赤松憲子
  • 秋の繭ことりと影の生まれけり 永方裕子
  • かくれゆく旅のごとしや葛の谿 皆川盤水
  • 朝寒や歯磨匂ふ妻の口 日野草城
  • 眼鏡はづして病む十月の風の中 森澄雄
  • ゆきすぎて戻る風あり芒原 沖祐里
  • 十三夜うすぐも屋根に垂りにけり 大野林火
  • 金木犀風の行手に石の塀 沢木欣一
  • 秋風の吹きくる方に帰るなり 前田普羅

・冬

  • 木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ 加藤楸邨
  • 初霜やひとりの咳はおのれ聴く 日野草城
  • 火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ 能村登四郎
  • 冬の浜わが足跡もいつか消ゆ 三島晚蝉
  • ともしびや酢牡蠣と噛みし柚子の種 永井東門居
  • 落葉踏むうしろの音も一人なる 山崎ひさを
  • 茶の花やこゑ出して口あたたむる 岸田稚魚
  • 凍蝶に指ふるるまでちかづきぬ 橋本多佳子
  • 一対か一対一か枯野人 鷹羽狩行
  • 手袋の十本の指を深く組めり 山口誓子
  • 芥焼く煙のなかの冬の蝶 沢木欣一
  • ほつれ糸指でたぐりて年の暮 木內彰志
  • 冬木立にぎりこぶしのうち熱し 岸田稚魚
  • 一茎の水仙の花相背く 大橋越央子
  • 埋火や隠しおほせぬこと一つ 透乙美
  • 冬深し手に乗る禽の夢を見て 飯田龍太
  • しづかなるうごき枯木のくりかへす 瀧春一
  • 現身の寒極りし笑ひ声 岡本眸
  • 水仙の香のただなかの胸さわぎ、 渡邊千枝子
  • 封筒のなか明るくて風花す 辻田克巳
  • 夢の世に葱をつくりて寂しさよ 永田耕衣

選句にあたって 遠藤若狭男

 


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