霊山 杉谷昭人詩集

 2007年9月、鉱脈社から刊行された杉谷昭人(1935~)の第9詩集。装幀は榊あずさ。著者は朝鮮鎮南浦府生まれ。刊行時の住所は宮崎市花ケ島町。

 

 本書『霊山』は、私の九冊目の詩集になる。
 天才でもない身には、言葉の可能性をその極限まで追求したなどという詩は、とても書けるものではない。しかし、日本語の語法を大切にしようと努力するくらいは、できるかもしれない。あるいは、私の詩を読んでくれた人たちに、「こんな詩が読みたかった」と一瞬でも思わせるくらいのことは、できるかもしれない。
 この数年、詩誌ではない場での発表が多かったのは、そういう気持ちのせいであろう。
 私は二十代のころを、日之影という山村の町で過ごした。そしてそのころの体験を自らのモチーフにすることによって、はや五十年となる。そのあいだに、何が変わったのか、何が変わっていないのか―それはまだよく分からない。
 たしかに、相次ぐ大洪水で鉄橋が流され、鉄道は廃線の危機に追いこまれ、町の人口は半減してしまったけれど、一日一日を誠実に生きている人びとのやさしさや笑顔は、昔のままだ。この町の魅力は、終生かけても書きつくせないだろう。
 この国の、いや地球上のあらゆる土地で、人びとは同じように生きている。その日常の安穏と平和を乱すものへの怒りだけは、忘れたくないと思う。
(「あとがき」より)


目次

・五十年後 日之影

  • 日之影温泉駅
  • 閉校式
  • 分校跡
  • 菜殻焼き
  • 八月
  • 八月の午後
  • 九月(一)
  • 九月(二)
  • バイパス工事
  • 籠をつくる
  • 山の仕事
  • 古畑にて
  • 作小屋
  • 冬の庭
  • 冬の窯――無名の陶工に
  • 柿畑にて

・洪水のあと

  • 水源(みずくち)――神谷川にて
  • 水の音――見立谷にて
  • カワガラス――坪谷川上流にて 
  • 夏の終わり―綾北川渓谷にて
  • 森の道――大森岳北麓にて
  • 台風
  • 洪水のあと――五ヶ瀬川にて
  • 大雨のあとに――大谷川堤防にて
  • 春の午後――浦之名川にて 
  • 水のにおい――庄内川源流にて
  • 石風呂――山田川上流にて
  • 何もなかった一日
  • 高千穂往還

・霊山

  • 仕事始め
  • 夢の時代
  • 山の正月
  • 島廻(しまめぐり)
  • コースター
  • 十二月
  • 冬耕
  • 家族――一一ツ葉海岸にて
  • 休日―─西都原古墳公園にて
  • 一年ののちに――県立芸術劇場にて
  • 山小屋のクリスマス――大崩山荘にて 
  • 日暮れに
  • 松並木の朝に
  • 霊山(おやま)

あとがき


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