1991年8月、舷燈社から刊行された大重徳洋(1947~)の第2詩集。
長かった昭和は終わった。長すぎたというべきだろう。戦後に生まれた私の昭和を十年区切りで思い返すと、昭和四十年代や三十年代はすでに春の霞のむこう。さらに七歳までの二十年代は、渺々とした陽炎の風景だ。死が恐ろしかった少年のころ、人生を二十年以上生きる(おとなになる)ということはとてつもないことに思えた。まして四十歳までも生きれば、果たすべきおおかたのことは成し終え、しゃくしゃくとして、迷いや悩みとは無縁に生きているだろうと想像していた。
ところがとうに四十歳を過ぎた今も、少年のころといくらもちがわない自分がいて、悩みは去ることなく、迷いはいっそう増しているのだ。もちろんこれから先いくら生きても、悠々とした人生は少なくとも私には訪れないことぐらい確信できるようになった。(「あとがき」より)
目次
- 再会
- 闇から呼ぶ声
- 海へ
- 風
- かなしみ
- 螢
- きあげは
- Kの死
- 髪
- あらかじめ書かれた「今」という詩
- わたしではないだれか
- 蛇の歌
- いい人
- わたしが生まれたとき
- 蟻の巣
- 未刊の夢
- 化石
- 富士が見える日
- そんな人生
- 六月の恋
- 静かな狂暴
- 陸橋
- 五月のアルプス
あとがき