1983年8月、葦書房から刊行された美村幹の第3詩集。
『岬の犬』『大泣橋』につぐ詩集である。
例によって、初出どきの目に余る不手際さに、鞭を当て、専ら削る方向で手を加えた。捨てるものは捨てた。『大泣橋』から、四年を経ている。
天草で生れ、水俣で育った。生みの母の天草、育ての母の水俣ということになる。その母たちとも、いまは遠くに住まうようになって久しいが、血は、(その母たち)のもので濃くなっていくばかりの様である。
昏睡から蘇った胸を風が撫でさすっていた。幽明のさかいを生きつづけながら、いつも側に居てくれたのは風であった。風にしがみ付くようにして病揚を生きた。自後、風の生まれてくる自然の方へ、空気が美味いことだけで生きていけそうな世界の方へ、わたしの詩は向かい、風を傷めるものに心を痛めた。
客席におりてきたサーカスのピエロが、母にしがみついた子供に、差し出した手の温みと、目の哀しみを忘れないでいた。
「飄逸」とすることで決めていた。直前のひらめきで、「宇宙遊泳」とした。あのピエロの手を、より、力を入れ、親愛をこめて握り返せるようにおもえたからである。
「あとがき」など、これまで一度として書いたことがない。その分だけ余分に書き過ぎたようである。こんな詩集でも手にしてくださる方たちへの感謝と、詩の理解の為のなにがしかの足しにして貰えたらと願う、自からの表出とお寛容いただけたら、有難いと思う。
(「あとがき」より)
目次
- 魚
- 橋の下
- 彼岸
- 困った話
- いしたたき
- 鬼の歯型
- 偏と労
- 芯は見えない
- 蛇
- ものを考えると
- 長い橋
- 宇宙遊泳
- 使者
- 湖底の、樹
- 解き目
- 酒屋の小僧
- 阿蘇へ
あとがき