1954年5月、宝文館から刊行された松川事件被告を支援するアンソロジー。装幀は桂川寛。編纂委員(順不同)は、川路柳虹、大江満雄、深尾須磨子、小野十三郎、村野四郎、サカイトクゾウ、北川冬彦、中野重治、金子光晴、安東次男、草野心平、赤木健介、壺井繁治、上林猷夫、岡本潤、秋山清、野間宏、吉塚勤治、伊藤信吉、瀬木慎一(編集事務)。
この詩集は、「松川詩集刊行会」の責任において、企画・編集されたものであります。「松川詩集刊行会」がつくられたのは、第二審判決を目前にひかえた昨年の十二月十八日でしたが、じらい三カ月あまりの時日をついやし、数度にわたる協議をかさねて、いまここに『松川詩集』を世におくることになりました。
松川事件はすでにひろく知られているとおり、日本の再軍備が進められるさなかで起った事件でありますが、第二審判決後のこんにちも、なお多くの国民に深い疑惑を投げあたえています。
もちろん、この事件に対する、わたしたち詩人の立場はけっして単一のものとはいえません。しかし、この事件とこの裁判を、日本の現実の暗黒の象徴と見ることでは共通しているといえます。わたしたちは、この共通の場にたって、すべての政治的見解や思想的立場、さらに文学的流派の相違をこえ、全国の各地から、できるかぎりひろく、それぞれの詩的発言を集め、選んで、一本にまとめることができました。ここに、この詩集の大きな意義が見出されるものと考えます。
同時に、この詩集が事件のためにとらえられ、自己の無実のあかしのために、獄中で詩を書きはじめた被告たちとの共同詩集として編まれていることは、他の多くのアンソロジーと、その性格を異にするものといえるでしょう。
わたしたちは、この詩集が、松川事件に対する獄内外の詩人たちによる詩的ドキュメントとして、この事件を包む暗黒を、内面から詩的に照らしだすことに役だつならば、本集刊行の意義はいっそうの重さを加えることができるものと信じます。「なお、この詩集の印税は、刊行の趣旨にもとづいて、被告家族団におくられるものであります。
(「序」より)
目次
序
第1部 一つの真実(被告・家族の詩と短歌)
第2部 日本の眼(事件についてかかれた詩)
第3部 人間の声(事件についてつくられた短歌と俳句)
- 感想
- 松川事件重要日誌
- 判決内容
あとがき