夜の詩人たち 清水昶

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 1975年7月、青土社から刊行された清水昶(1940~2011)の評論集。装幀は宮園洋。

 

 なんという題名の小説だったか、もう忘れてしまったが吉行淳之介の小説に「いずれ、あいつもこんなふうになる」といって煙草の吸殻をひねり潰すように灰皿にねじ込む一描写を想いだす。「あいつ」とはたぶん主人公の失恋の相手だったように想うが、その奇妙に生まなましい相手へのにくしみの描写が永くわたしの記憶に残ったのは、何気なく生きているようにみえるわたしたちの日常には、当り前のことではあるが、その当人ならではの無数の喜怒哀楽が亀裂を作っているのだということを新鮮に再認識させてくれたからにはかならない。
 表現行為とは、いわばそのような日常に対する距離のとり方だとわたしは想っている。わたしは、この日常を茫然と、しかもあわただしく生きながら、ふと立ちどまる時がある。立ちどまる時は、いつも深夜だ。そして闇の彼方から孤独に生きるひとびとの人影がぼんやりと浮かびはじめる。そのようなひとびとの人生の一回性を自分の影とかさねあわせながら、わたしはいつも詩と散文に向き合っている。けれども、わたしは自分自身が、いったい何処へ行こうとしているのか、いまだに見定めてはいない。自分自身の取り扱い方を考えあぐねている。だからわたしにとって詩とは、日常を日常のままに生き流されている者が自身に対してうらみのように距離をとりつつ自己解放に向かうための一滴の批評だと想っている。
 願わくば「夜の詩人たち」よ、洪水の前のごとくにひそかな警鐘をうち鳴らせ……。
(「あとがき」より)

 

目次

  • 死者の目覚
  • 死者と権力
  • 青春への遺書
  • 狂気の赤ちゃん
  • 身体のなかの日常
  • 誰に捧げん徳利ひとつ
  • 闇の中の後退戦
  • 不死の伝承
  • 目の対話について
  • 詩人と革命
  • 信濃路の雪深し…
  • 歳月
  • 夜の時代の詩人
  • 自闘の時代の詩のありか
  • 蛍狩り

あとがき


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