1958年9月、大日本雄弁会講談社から刊行された獅子文六(1893~1969)の短編小説集。装幀、扉は益田義信。
この書には、私が国外に取材した作品の全部(長編「達磨町七番地」を除き)を、収めた。戦前から戦後にかけて、三十年近い時期の折々に、書いたものである。
国外といっても、主として、パリ生活――その中の日本人を描いたものだが、私自身の青春が散在してる点で、懐かしい。校正刷を読み返すと、あの時のこと、あの人のこと、そして、あの時の自分という風に、回想が涯なく湧いてくる。文中に出てくる「私」は、大体に於て、私自身であり、誇張はあっても、ウソの少い書き方をしている。「ドイツの執念」は最近作であり、且つ、最も長く筆を費したので、表題に用いたが、この材料も、三十年前から、私の腹の中にあった。ドイツや日本のことも書いてあるが、私の気持としては、やはり、これも、パリ生活の中から、生れたものである。
(「あとがき」より)
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