2014年3月、オリオンから刊行された森沢友日子の散文集。
正直で飾らない森沢さんの文章は、いわばすっぴんの彼女の心と顔をいささかも隠さずに見せるから、今どきの本の商売の文章しか読んだことのない人には、別種の印象と感動をあたえるとぼくは思う。
日本の大東亜戦争の敗戦前後の高知の名家一族の内実が彼女によってなまなましく語られる。高校生くらいまでの年頃というのは、苦難にしろ、悲しみにしろ、喜びにしろ、誰にとっても宝石箱みたいに貴重なもので、そのかけがえのなさを土台にして、このエッセイ集は成り立っている。
人生を表現することは、その人生を二重三重に生きることでもあるから、森沢さんのろやかな強さの由来もわかる。
彼女のことをお名前だけしか知らないとき、ご自身を日女ではなく日子と名乗っているのに戸惑った。彦は男性ではないか。するとウーマンリブかなにかの手ごわい女性かと気になったが、落着いて読むと、日子の友とあるからちょっと安心した。大阪文学学校で学んでいたとも誰からとなく聞いた。彼女が京都に住まいを移されたのを機に(ほくのほうはほどなく京都を離れて、なんとなくちぐはぐながら)詩人としての彼女を知った。
今度はその彼女の、散文の人生の贈り物である。
(「賛 中江俊夫」より)
非常に個人的で恥ずかしいことなどを書きつらねて、昔かたぎの親たちが生きていれば叱られそうですが、私たち子供を遺して亡くなった二人のために、あなたたちの子供はこうして生きてきましたと報告するように書きました。もちろんそれは私自身のためでもあり、他のだれに残すつもりもありません。私の親しい人たちは、ほとんどこの世に居りません。彼らよりはるかに長生きして彼らの知らない空気をかぎ、喜んでもらえるのかはわかりませんが、励ましてくださった詩人の中江俊夫さんのおかげで、やっとこの本は出来上がりました。
(「あとがき/森沢友日子」より)
目次
- 北側の庭
- 父の記憶
- 山の記憶
- 机
- 母の味
- 幼年期
- お揃い
- 葬式
- 空襲
- 金平糖
- 嵐の日
- ひび模様
- 祖母
- 祖母
- 伯母たち 万亀
- 伯母たち 鶴
- 叔母
- 少女雑誌
- 隣の母子
- スカートの下
- 林さん
- 仲間
- 初心のころ
- 映画
- 観月橋時代 一、
- 観月橋時代 二、
- 観月橋時代 三、
- はじめてのダストシュート
- 三椏の花
- 太陽熱オーブン始末
- 黒砂糖の塊
- 手指
あとがき
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