2007年11月、土星群から刊行された森沢友日子の第5詩集。
母のことが気になりだしたのは、私が歳を重ねてからだ。その死には戦争が否応なくかかわっている。原爆でも空襲でもないが戦後の混乱期、ただ食糧が不足していた。薬もなかった。人の生命に直結する大切なものが、日常にはなかった。
終戦の年の初めに父が死んでからは、寝たきりの祖母と子供たちだけの家庭に戦争末期、手助けの人手もなかった。そこが母の育った土地でなく、相談する相手もなく、非常に心細かっただろう。私たち以上に悲惨な目にあった人たちは沢山いるし、ことさら不幸だと思ったことはない。お涙ちょうだい的な「家庭の事情」が苦手で、そんなことを詩に書こうとは思わなかった。自分の存在を含め、現実を容認できなかっただけで、私に詩はなかった。
七十年生きて、まだ自慢する何もない。詩とは程遠い生活にまみれ、わかっているのは失敗ばかりの貧しい過去だけ。隠しようもなくこれが自分だと、正直に納得するしかない。
こんな感度の鈍い私を、繰り返し励まし、力づけてくださった中江俊夫さんのおかげで、ようやく『小石』が誕生しました。十一年ぶりの幸運に感謝しています。
(「あとがきに代えて」より)
目次
- 小石
- 贈り物
- 手紙
- おばあさん
- 不仲
- 片恋い
- 探索
- きょう鳶の鳴き声を聴いた
- シュペルヴィエルさんごめんなさい
- 午後遅い公園で
- 卵焼き
- 公園、大通り
- 雀
- 孤独
- 藻
- 排水孔
- 思い出
- 旅
- 名前を消す
- いつからか
- 囲い
- 押し売り
- 窓
- 目もくれず
- ずっと逃げている
- 京の露地
- 袋小路
- ノブ
- 待ち時間
- あのときのおばあさんのように
- ゆっくりゆっくり
- 桜
- 穴のあいたてんぷら
- 夢のうち
- 友だち
- 神様のおぼしめし
- めぐりあわせ
- 風のうた
- また……
- 斧
- 何の役にもたたず
- 十月
- 楠の家を離れて
- その空
- 西瓜を食べて
- 夏
- 胃袋
- 明暗
- 祖母と子供
- テレビもゲームもなかった
- 縁側
- 中村
- 夕映えの街
- 青い眩しい空の下
- 海へ
- 雨あがり
- 跳ぶ馬
あとがきに代えて