夜明けに人は小さくなる 山崎純治詩集

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 1997年4月、ふらんす堂から刊行された山崎純治(1956~)の第1詩集。装幀は君嶋真理子。著者は北九州市生まれ、刊行時の住所は相模原市

 

 14年間愛用してきたモンブランのペン先が折れた。筆圧が強い酷使の末に両脇から亀裂が入ってきてはいたのだが、酔った勢いで殴り書きしたときが致命的だったのだろう。初めての給料で礼服とともに買い、そちらは数年前とっくに身体に合わなくなっていたのだが、ついに万年筆も使えなくなってしまった。
 私は会社生活に入ってから詩を書き始めたので、この詩集の詩もすべてモンブランで書いてきた。つまり詩を書いてきた年月は、そのまま会社で働いてきた年月でもある。そういうこともあって書き始めて以来、こだわってきたのは一連の「カイシャ」の風景である。その風景の中で私は「ワタクシ」や単に「男」としてしか存在し得なかった。素顔のままの私は会社ではあまりに無防備なので、ワタクシになってようやくカイシャに踏みとどまっている。そうしてワタクシがかたるカイシャの中で、あぶり出されるように私がカイシャにかたられる。カイシャに流され変容してゆく、変容させられてゆくワタクシを見据えるために。深刻で痛切なのだが、何となくコッケイ。
 それらの年月と風景をあのモンブランで書いてきた、という思い入れがあった。だから初めて詩集にまとめ、あとがきを書いているときに折れたということが、何か必然的なことに思えてならない。この年齢になってようやくけじめをつけようと思った私に呼応したのかもしれない。次に購入する万年筆からは、新しい詩が書かれなければならない。
 この詩集をまとめるにあたって、すでに解散した詩の同人誌「浮遊」の仲間たち、なかでも金井雄二君には詩集や個人誌を出している立場から貴重なアドバイスをいただいた。みなさんのおかげでようやく、初詩集の出版にこぎつけられたことを感謝している。
(「あとがき」より)

 

目次

 

あとがき

 


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