1988年8月、批評社から刊行された与那覇幹夫(1939~2020)の第2詩集。付録栞は、石川逸子、塩見鮮一郎。著者は宮古島七原村生まれ、刊行時の住所は沖縄県南風原町。
お国は、と聞かれて、どこそこです、と応えるのが習わしだったが、ふるさと? それなんだっけ。アイデンティティ? そんなものハイテクの中さ、とにべもなくあしらわれそうな時世の到来である。科学技術の進歩は情報を、生活様式を地球上均一化する勢いである。これまで都市と農村という対置で成り立っていた図式は、ハイテクや情報の震源地と、その波を浴びる側という分け方によって、かろうじて対置できる側面を宿しているに過ぎない。
しかし、果ての島の農村の孫として生まれた私にとって、生まれ育った村が過疎の波に洗われ、身近な者を生み育てた村が廃村となった在りようは、胸からひとつ、何かが欠けた感じである。
だが都市もまた、農村の過疎廃村と同じように、人々の暮らしの体温と馴染まず、都市に住まう人々は空虚という過疎を抱え込んでしまったのは確かである。農村からは人が遠ざかり、人からは都市が遠ざかる――いま、しきりとそう思えてならない。過疎の村霊を追ってやってきて、都市霊が飛び立って行く現場を見た思いである。
(「あとがき」より)
目次
- 序章 白い街
- 交合
- 先島
- 仏桑華
- 風
- 梯梧
- 異母神
- 魂立ち
- 残
- ホワイトホール
あとがき