1999年9月、編集工房ノアから刊行された神田さよの第3詩集。装幀は森本良成。付録栞は安水稔和「生きているという実感 震災詩・震後詩」。著者は東京生まれ、1972年から関西在住。刊行時の住所は西宮市。
震災から四年半が過ぎた。季節の移り変わりを感じる前に、避難所から仮設住宅、そして住宅再建、あるいは恒久住宅への引っ越し、という区切りが年間カレンダーを形作っていたように思う。
この震災は大きな爪跡を残した。私の周りにも震災で亡くなられた方、家や家財を失った方がたくさんいる。その辛さをひきずって、皆、今も大変な生き方を強いられている。近所の家は、殆どが再建されたが、いまだ更地で手付かずの家がある。ブルーシートが掛けられた家財道具が、更地にずっと置かれたままになっているのを見るのはつらい。
たった二十秒間の揺れが、私達をどう変えたのか、どう変えていったのか。心に重いものばかりが残る。皆同じ立場の被災者であったはずだったのに、辿る道はあまりに異なる方向へと歩まざるを得なかった事実。納得のいかないまま、納得させてしまう自分にも憤りを感じている。
震災以後、仮設住宅の年老いた方達、障害をもった方達への訪問、生活支援の活動をしてきた。現在は恒久住宅に活動の場を移しているが、皆、決して希望のもてる生活をしているとは言えない。深く暗い現実を前に私達の活動は無に等しいかも知れない。活動をしていて何人もの方を、遠い国に見送った。その方のお墓を建てるつもりで作品にした。癒されない心。傷ついたままの心。ひとすじの光を信じて、願って、私は書いてゆく。
(「あとがき」より)
目次
- その朝
- 満月
- 変わらないもの
- 告発
- 震える耳
- 初夏の朝
- 遺品
- 空地
- ニュースステーション
- 眠った街
- ハーフコート
- 建て直し
- 残り香
- 二年目の秋が
- お辞儀
- 白い渦
- テツの震災
- 三分咲き
- 仮設住宅Ⅰ
- 仮設住宅Ⅱ
- 大道さんのロザリオ
- 三味線と
- 数
- Nさんの死
- 三年半
- 青しその苗
- 最後のコーヒー
- 弘光さんの四年間
- 生きる場所
- 終の栖
- もらったことば
- ことばの木
- 洗濯もの
- 白い花
- 月あかり
- 割れたコップ
- 四年目の春
あとがき