2020年10月、国書刊行会から刊行された原葵の幻想小説。装幀は山田英春。
この「くじら屋敷のたそがれ」の主題は、長い間私が胸に抱いていたテーマでした。
実は、同じような主題で短編小説集「裏地とボタン商会の猫」(以心社、二〇一四)と詩 集「変装術師の娘」(沖積舎、二〇一九)を書き発表していたのですが、祈り、贖罪、許し、解放等の主テーマは、あまりにも重く大きなもので、私の手に余るものでありました。 とうてい描き及ぶことのできるものではなく、前二著の刊行後も、ふつふつと不燃焼の燠火 のように私の心の奥に燃え続けていました。そこで、またぼちぼちと後篇のような積りで、 小さな物語や散文詩のようなものを書き継いでいったのが本書です。
本書の作品の大部分は、小林稔氏の個人詩誌「ヒーメロス」に寄稿したものです。発表の 機会を与えてくれた小林稔氏と「ヒーメロス」誌に深く感謝しております。
また一部の作品は、かつて詩人芦原修二氏が主宰していた「短説」誌に掲載したものを大 幅に改稿したものです。
本書の出版に当っては、国書刊行会出版局長の礒崎純一氏に編集の労を執って戴きまし た。礒崎純一氏は澁澤龍彦の評伝「龍彦親王航海記」の著者でもあり、同書によって読売文 学賞を受賞されました。私にとって礒崎氏の手を煩わせて本書「くじら屋敷のたそがれ」が 国書刊行会から出版されることになったのは、望外の喜びであり、僥倖とも言ってよい幸運 でありました。礒崎純一氏に厚く御礼申し上げます。有難うございました。
(「あとがき」より)
目次
プロローグ
第一章 ようこそ島へ
- 夫のノート
- 海雀が鳴く朝
- 地図
- 島内案内人
第二章 水上二足歩行について
- 妻のノート
- 徘徊する者
- うすばかげろう
- 水上二足歩行術者
第三章 東部海岸の人々
- 家族の日曜日
- 東部海岸の犬たち
- 東部海岸、丸ふじとんかつ店
第四章 くじら屋敷の猫たち
- 猫の小説作法
- 屋根の上の隠者
- 忘れの森で
- 本当の名は
第五章 絶滅危惧種
- 何でもあります
- 鞭の音
- あたしの胸がふくらんだら
- 絶滅危惧種
- 打ちあけ話
第六章 たそがれのサーカス団
- 焚き火
- ポタポタ
- カエルモドキ
- ぼくの不眠
- たそがれのサーカス団
- たそがれにあらわれる者
エピローグ