2000年4月、アートランドから刊行された財部鳥子(1933~)の散文小品。
昨年、前橋文学館で私の展覧会をするということで、机の引出しの底、物置、押入れなどをさがして、三十年来の反故をあつめ、自分の年譜を作り、図録の資料を出しました。このような生産的でない仕事をするのは、お世話になった文学館の方には誠に申し訳ないのですが、辛くてノイローゼ寸前になり本当に逃げ出したくなりました。
引っぱり出した古い手紙や写真の類は、用が終わったあとでも、戻す場所を探すのが面倒でそのままダンボール箱のなかにあり、ここにあつめた散文もそういうわけで、この機会に一冊の本にしておこうと思いました。これはとりもなおさず、展覧会のお陰ということになりますが……。この本をわざわざ散文小品といったのは、私の好きな夏目漱石や周作人などの散文に小品文というものがあり、私の文もその足もとに及べばいいなというほどの意味です。なにしろ三十年、量も多く大幅な取捨選択をして、やっと一冊にまとめることができました。
詩を書くときは、仕事ではなくサーカスをしているようで、綱渡りの緊張感と、うまく渡れてもこれでよかったかという思いで、つねに未完のファイトを仕向けられますが、散文には仕事をしているという地道な緊張感があり、これも私の性質に合っているのではないかと思いました。(「あとがき」より)
目次
1
2
3
4
- 幻の犬
- 十一才の夏
- 秋空
- 少年の日々
- 居候