谷崎潤一郎と書物 山中剛史

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 2020年10月、秀明大学出版会から刊行された山中剛史(1973~)による谷崎潤一郎の書籍評論集。カバーデザインは『麒麟』『人魚の嘆き』『蓼食ふ蟲』『新槧春琴抄』『鍵』『武州公秘話』『自画像』からの引用。タイトル文字は小村雪岱文字(『女人神聖』)からの採集。

 

 本書は、わたしの最初の単著である。考証的エッセイに加え、院生時代や最近の論文、また序論の古書論など書き下ろしも含む。わたしは三島由紀夫谷崎潤一郎を専門としているが、いままで発表した谷崎関連のもので書物に関係するもののみを集めた。谷崎の初版本といえば、胡蝶本をはじめ『お艶殺し』や『近代情痴集』、または『蓼喰ふ虫』やら『卍』といったような美装本のあれこれがあるにもかかわらず、幾つかは言及しながらもメインに取り扱ったものはどちらかというと渋い本ばかりになった。わたしの古書に対する考えは序文後半に尽きているが、美装本の頌歌はまた別の機会に譲り、ここでは地味であるがゆえに見過ごされてきた「意味」を追いかけたつもりである。十年以上前の原稿とごく最近のものと収録したものに開きがあるが、いま振り返ってみればまことに不経済なやり方で、谷崎と三島と共に考えつつ、その時々の問題意識に沿って焦点を定め直して論考を執筆していたいわば蛇行運転の軌跡のようなものである。なお、一本にまとめるにあたり、装釘は「装幀」に、挿画は「挿絵」とした。「装幀」をめぐる語源的解釈をはじめとする喧しい議論を蒸し返すつもりもなく、また挿画は装画と同じ発音をすることもあるため敢えて挿絵としたもので他意はない。
(「後記」より)

 
目次

序にかえて――書物あるいは古書という視座
凡例

  • 谷崎本書誌学序説
  • 1 谷崎本から見えてくるもの
  • 2 植竹書院版『麒麟』の位置
  • 3 植竹書院小伝
  • 4 改訂版『武州公秘話』について
  • 5 『文章読本』版数のゆくえ
  • 6 改造社版全集月報と谷崎作品投稿イラスト
  • 7 札幌版『春琴抄』特製本
  • 8 谷崎本唯一の謄写版刷本
  • 9 全国書房の和紙限定本
  • 10 『鍵』イメージの流転

  • 『人魚の嘆き魔術師』挿絵とイメージの展開
  • 『人魚の嘆き』挿絵考
  • 『人魚の嘆き』挿絵考・補遺

主要参考文献一覧
後記


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