1970年9月、坂の上書店から刊行された西岡光秋(1934~2016)の第3詩集。第4回日本詩人クラブ賞受賞作品。刊行時の著者の住所は中野区新井。
手の届かないような所に位置するようでいて、そのじつなれなれしく身を擦り寄せてくる詩。その厄介な代物を、もう長年ものあいだ重荷とも思わず後生大事にたえず身近に引き寄せておこうとしているが、このことはどのような女に対する思慕よりも重症のようである。
過日、母が胃潰瘍で入院したら、安静度をしるした札がベッドの枕頭にぶらさげられた。ぽくなど、毎日のように詩病安静度1の目に見えぬ札をぶらさげながら、素知らぬふりして街を歩いているのかもしれぬ。その様子は詩を思わぬ人間たちにとっては滑稽かもしれないが、詩のことをいつも思いつづけているばくにとっては真剣な表情なのである。ぼくの日常の底辺にひそむ滑稽と真剣との間隙、それがこの詩集誕生の契機になったといえる。
「霞が関」の大半は宝文館刊の『日本の長篇詩』に収録されたものであり、「旗」「椅子の話」などは『日本未来派』に発表したものである。また、「十条」の諸篇はそのほとんどを『木馬』に発表したものである。
霞が関には十五年、十条には十年とそれぞれの空気に親しんできた。親しんできたとはいうものの、故郷に対するような骨肉化を意図しながらもなおそれが果たしえないもどかしさがばくの「霞が関」と「十条」には残滓のように淀んでいる。所詮、人間はひとつの土地に住みながら、いつの時も異邦人の気持ちにさいなまされるものなのであろうか。
さいなまされながら発してきた体臭、詩に体臭があるとすれば、ぼくのある時期におけるそれはこの詩集が代弁してくれるであろう。
(「あとがき」より)
目次
・霞が関
- 鵜匠
- 眼鏡屋
- 質屋
- 六法全書
- 手錠
- 鳩
- 旗
- 季節
- 椅子の話
・十条
- 爪白
- 雨
- 風花
- 寒い夜
- 灰皿
- 拍手
- 二つのことば
- 十条銀座
- 夜
- 某
- 夕やけ
- うた
あとがき
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