1979年8月、ASA(芸術研究協会)から刊行された新國誠一(1925~1977)の詩選集。装幀・レイアウトは吉沢政次。著者は仙台市生れ。
ちょうど亡くなる前年頃に,新國誠一は自選詩集の出版を計画していた。作品の選定はほぼ終り,吉沢正次の装幀見本も出来上っていたから,刊行されれば「0音」「日仏詩集」につぐ第三詩集になるはずであった。没後,ASAの仲間うちで自然にこのことが話題になり、彼の遺志をかなえようということになった。ただ規模と構想は故人のそれとおのずから相異せざるをえなかった。一つにはこの機会に故人の詩業を総括する責務をわれわれが感じたこと、次に広く一般にもそれを理解してもらう好機と考えたからである。彼の詩はコンクリート・ポエトリィと呼ばれる。欧米でこそ,いまや文学ジャンルとして確立し定着しているが,わが国では一部の人を除いて,まだほとんど知られていない。それが彼には時に苛立ちの種であったが、この詩を日本の風土に根付かせ,空間文明時代の超国家詩として確立しようとする彼の意欲は,死ぬるまで変りなかった。「ことばは存在の家である」とのハイデガーのテーゼを彼ほど真剣に受けとめた詩人は少ない。その上に立って「もの=ことば」の中へ踏み込み,美的情報のことばを構想したところに、彼の作品の核があった。それは作者と共に受容者も作品世界への参加を誘発される詩であったといえるだろう。
(上村弘雄)新國誠一は行ワケや散文での詩型で詩を書くことに魅力を感じなかった詩人である。彼は日本語がもつあらゆる要素,またその音に対して、全く別の宇宙からとびおりてきた人のようなアンテナをもっていた。それらがここに作品と詩論の形で集められたものである。彼の仕事はヨーロッパをはじめ,世界各国で高い評価を受けていたが、どういうわけか,日本のなかでは生前は,知る人にしか知られなかったのが惜しまれる。
この遺稿をまとめるにあたって、まだ彼の書庫にねむっている作品もあるので、これはある意味では「選集」と名付けられてもよいだろう。(藤富保男)夫が急逝してからもう三回忌を迎えようとしています。急逝とは云え、彼にとって十五年間,死はいつでも足元に口を開けて待っていたようなものでした。せっかちで几帳面な彼が作品の出版の準備は大分前から計画していた筈なのに、何故出版を急がなかったのかと彼は作品や論文の趣旨に何かもっと追求すべき課題があったのかと思われます。茲に至っては、彼の一通りの業績をまとめ上げる他はありません。次の世代に星の瞬き一つ残してくれた業績を私は私なりに誇りに思っています。藤富様,上村様,吉沢様,此の本を忙しいお仕事の傍まとめ上げて下さいました方々に感謝を捧げます。
(新國喜代)
(「あとがき」より)
目次
- 空間断面(詩集「0音」より)
- 湖を (詩集「0音」より)
- 子供の城 (詩集「0音』より)
- 伝達9 TRANSMISSION9
- 川または州・RIVER OR SANDBANK
- 空をさがせ・SEARCH FOR SKY
- THE KATSURA DEPACHED PALACE
- プロメテウスの火 (『日仏詩集』より)
- 沈める寺(『日仏詩集』より)
- かるい (『日仏詩集』より)
- 嘘・LIE
- 雨・RAIN
- 皿と血・DISH AND BLOOD
- 闇・DARKNESS
- 空隙・VACANT SPACE
- 窓・WINDOW
- 引く・PULL
- 辻・CROSSROADS
- 幻・PHANTOM
- 囚・PRISONER
- 位置・POSITION
- ムスメ・DEMOISELLE (「ミクロポエム」より)
- ホ・VOILE (「ミクロポエム」より)
- 雲と空・CLOUD AND SKY
- 大地・THE EARTH
- 的・TARGET
- 皮になった川・A RIVER HAS ALREADY BEEN REDUCED TO SKIN
- 反戦・ANTI-WAR
- ゆめ・イヴ・RÊVEEVE・EVE (「数学的簡略小詩篇」より)
- わたくしはたわむれる・JE・JEU (「数学的簡略小詩篇」より)
- 状況Ⅰ・CIRCUMSTANCES Ⅰ
- 膿になった海・ SEA HAS ALREADY BEEN REDUCED TO PUS
- 禍根・THE ROOT OF EVIL
- 悲歌・ELEGY
- 点滅・GO ON AND OFF
- 触る・TOUCH
- 淋し・LONELINESS
- 声家族・VOCAL FAMILY
- 悪魔祓い・EXORCISM
- さみだれ・EARLY SUMMER RAIN
- 個体・INDIVIDUALITY
・詩論
略年譜
作品目録
詩論――翻訳 その他目録
あとがき