2023年7月、思潮社から刊行されたたかとう匡子(1939~)の評論集。装幀は井原靖章、切り絵は井原由美子。著者は神戸市生まれの神戸市在住。
思えば最初のこの「私の女性詩人ノート」に収録した十四人の詩人ノートを書き終えたとき、今まで経験したことのない充実した時間を過ごしたという感じと、私自身たくさんのことを学ばせてもらったこともあって、一冊では最後にしたくない、さらに一女性の視点で私なりに葛藤をつづけたい、この一冊は私にとって通過点に過ぎないという思いが残りました。何かたくさんのものを積み残しているという気持ちも強くありました。
二冊目は同時代詩人論として、戦後からの、私と同じ時間、同じ空気を吸いながら生きた時代の先輩詩人たちを軸に書いていきましたが、井坂洋子、伊藤比呂美、倉田比羽子、平田俊子、小池昌代といった私より若い優れた人たちが、時代のなかにあって精いっぱいスリリングな新しい詩について格闘しているのを見たとき、この人たちもひたすら追いかけてみたくなりました。
こうして実際に三冊目となり、結果的に三十八人の女性詩人を書いてきましたが、書き終えて今はただただ夢を見ているような思いがしています。そして女性詩人に限って言えばターゲットの絞り方の難しさも感じました。過去から学ぼうとしていたのに、河津聖恵、日和聡子、蜂飼耳など未来の人へと立ち入らざるを得なくなって、エキス(栄養)をもらおうとして書いてきたというより、立場が変わってきて私の手に負えない未来もあり、そこまで入り込まざるを得なかったということは、過去において女性詩人がやはり少なかったと言えるのではないかと思います。
それにしても私は詩が大好きです。ここに十二人、合わせて三十八人。私のなかでとくに印象に残る詩人とその詩を次の世代の人たちに私なりに申し送りをしたつもりです。どのように読んでくみません。ださっても結構です。私の体験を越えて、詩が新しい読者を得て、幅広く読まれることを願ってやみません。
(「あとがき」より)
目次
- 新藤涼子 接近した連詩の魅力
- 財部鳥子 腐蝕と凍結
- 高良留美子 現実をどう表現にするか
- 滝口雅子 職能婦人と戦後の詩意識
- 日高てる モダニズム誌「嘘」からの出発
- 西岡寿美子 詩人の眼が実現させた土佐
- 栗原貞子 「生ましめんかな」を問う
- 塔和子 ハンセン病最後の詩人
- 河津聖恵 〈女性詩〉とは異質な流れから
- 俵万智 『サラダ記念日」と一九八〇年代
- 日和聡子 山陰の風土と、詩を書くということ
- 蜂飼耳 「ラ・メール」以後・新世紀へ
あとがき