1986年6月、花神社から刊行された平井孝(1929~)の第1詩集。装画は齋藤政一、写真は清水武甲。著者は秩父市生まれ、刊行時の職業は新潟大学法学部教授、住所は新潟市小針藤山。
早いものだ。新潟に住んでもうかれこれ十八年になる。なんとはなく始め詩作。ポツポツ降る詩の雨に、五十代の僕は濡れている。時間の堆積とでもいったらよいのだろうか。一冊の詩集の量になっていた。灰色の空間を逆噴射の勢いで詩作する自分が、ときどき不思議におもえた。いまはこれでよかったのかと、詩の原点への模索が始まっている。まことに貧しい詩業である。だが、ここには、僕の心の底で脈打っているもの、僕を育ててくれた両親や故郷への熱いおもいが、こめられている。
いま、僕は夢想している。僕のこの小詩集が、僕と同じような故郷喪失者に、ささやかなりとも慰めになってくれるであろうことを。
(「あとがき」より)
目次
- 古里という言葉が好きになった
- 桑畑に沿って
- ビワ
- 失われた川を求めて
- 織機のうたが聞きたい
- ギンナンの実
- セメント工場
- 灰色の街へ
- 晩秋蚕が上出来で
- 三番峠を越えて
- 山肌が小豆色になると
- 十二月三日の夜のために
- 活動写真
- 霜畑
- 寒に入る頃
- 早春
- 春の坂道
- 銭苔の想い出
- あんまの梅さん
- しずかに降る霧の雨のなかを
- 目は閉じよ キラめく太陽は没せよ
- 竹ひごのつぶやき
- 明治の母のための哀歌
- 初冬の雨に濡れて
- 小松菜
- 柿の花が散る頃
- 青柿が落ちる
- タバコの下葉が黄色くなったら
- 秩父鉄道に乗って
- アンペラ
- 冬の日は懐かしく
あとがき