2024年2月、紫陽社から刊行された中村薺(1931~)の第5詩集。装幀は芦澤泰偉。著者は石川県小松市生まれ。刊行時の著者の住所は金沢市平和町。
ことしの超猛夏は一〇月に入っても衰えを見せませんでしたが、そこへ遥かな神から檄が飛んでまいり、どうやら一六編が仕上りました。日常のこと、路上で経験した平凡なことがらばかりです。
よく言われることですが、平凡から非凡へ、そこから再び平凡に戻ってゆくことは、非凡でないものにとってはたいそう難しい。この歳をして究極の平凡がまだ分りません。苦労がつづきます。夏のもつ若さとか新鮮さは眩しいばかりで太刀打ちなりませんが、まだまだ元気で、只の平凡をめざそうと、居直っております。
タイトルの「春子(はるご)」は春蚕に掛かっており、春の子は健康で、夏から秋に飼われた子は、くず繭と呼ばれていますが、紬などにヒゲを出し、風流人に好まれております。くずを逆手にとっての商いでしょうか。
秋になって、跳んでいるのが幸せだと思っている虫の貌を見たことはありませんが、いまのわたしはきっとそんな顔をしているのではないでしょうか。
(「あとがき」より)
目次
あとがき
著者略歴