2000年6月、編集工房ノアから刊行された丸本明子(1929~)の第11詩集。装幀は納健。
第23回の、「A会」の案内状がとどく。
この二年半の問、心臓病で療養をしている主人は欠席の返信を出す。
学徒出陣で招集されて、終戦と同時にソ連へ抑留されて強制労働の過酷な使役の収容生活をされた。学業の半ばで若い命が奪われた方々。そして、九死に一生を得て復員帰還することの出来た方々。亡くられた方々への鎮魂の祈りの集いである。今年で最後になるとのことである。痛切の内包する手記の本が手許にある。
私達世代は、戦中戦後の動向に翻弄される体験をした。
戦死された方々の英霊を迎える日々がつづいた。叔父達の戦死、担任の先生の輸送船とともに撃沈されてしまった死。学年主任の先生の栄養失調による死。焦土と化した国土と、焼死された方々の無念の死。
そして、祖父母の死。父母の死。弟二人の死。先達の作家、詩人、画家の方々の死。同期に入行した親友の死。死が重なっていく。
戦後一年半の、卒業式の日。父は癌で三ヵ月の命と、医者に宣告された。六人姉弟の長女の私には、試練の時であった。受験の日、入社テストを受けていた。(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 凋む
- 飛行雲
- 傾斜
- 枯尾花
- 雹
- 廊下
- 濃霧
- 隕石
- 蹴躓く
- 葱坊主
- 括る
- 棒杙
- 蟷螂
- 破れ凧
Ⅱ
- 粉蝶
- 無音
- 蒲公英
- 縮緬模様
- 獣道
- 潜る
- 廃屋
- 罅割れる
- 急降下
- 鱗雲
- 迷路
「無音」によせて 伊勢田史郎
あとがき