1974年12月、思潮社から刊行された小松郁子(1921~2009)の詩集。イラストは著者。第8回小熊秀雄賞佳作。
「内部の苦悩から、たとえば中庭のそれのような、ある外部の光景にいたる道のなんと遠いことだろう」
と、フランツ・カフカは一九二二年四月四日に、その日記に記しているけれども、わたしにとって「中庭」は内部と外部の間に通じる親しくあいまいな歩廊のようなものであり、そこにいつまでも佇んでいたがるわたしの性癖は、カフカを思えば、なにごとにもいいかげんという工合なものであるにちがいないと思われて来るのである。
ここにおさめた作品四九篇は詩集「村へ」の拾遺と、それ以後の作品(一九六五年~一九七三年)を集めたものであって「中庭にむかいて」という詩集名は、頗る単純に、それらの作品の大半が、雑草まじりの芝生と、ひょろひょろの杉の木が心細げに数本立っているばかりのビルの間の狭い中庭に面した机にむかって書かれたものだからということにすぎないのである。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ 沼
- 島
- 安堵
- ちゅうりっぷ
- おとむらい
- 雨
- 赤い小さな魚
- 沼
Ⅱ森
- 穴ぐら
- 旅
- 坩堝
- 椅子
- 猫
- 河原
- 波音
- 県道へ
- 山
- 森
Ⅲ 港にて
- 困惑
- 猫
- 虫
- 海
- 沼
- 嗚咽
- 拮抗
- 窓口
- 港にて
Ⅳ 霧
- 娘たち
- 島
- ベッドルーム
- 洋燈
- 蛍
- バスに乗ろうとして
- バスに乗ったら
- 逃げ出したもの
- 霧
Ⅴ 河骨
- 人形の部屋
- ほりわりのほとり
- 家族
- 薄暮
- 杞憂
- ポスター
- 玄関
- ほりわり
- 歩廊
- 寺院
- 時計
- 女のひと
- 河骨
Ⅵ 菫
- 菫
あとがき: