1985年6月、思潮社から刊行された加島祥造(1923~2015)の第1詩集。桜枝図扉・夕音図。
まことに不思議な味わいの詩集である。〈十年一タビ覚ム楊洲ノ夢〉の恨みから〈愁ヒ来タッテ独リ長詠シ 聊カ以テ自ラニオクルベシ〉に至る趣を逆手にとって、ここには晩晴の深沈と黄光の一宙字が確乎として在る。
(「帯文/北村太郎」より)
一九五一年より十年間つづいた年刊「荒地詩集」とその間に刊行された「詩と詩論」に、私は少数の詩と四つの詩劇とを書いた。詩はライトヴァースが多く、詩にも詩劇にも頭韻をしきりに用いた。ライトヴァース、頭韻、詩劇などの手法はいずれも英国詩人W・H・オーデンの詩業に示唆されたものだった。それから十五年は詩想が湧かぬままに過ぎた。一九七五年に伊那谷駒ヶ根山麓に小屋をつくり、時おり独居するようになって、詩らしいものが再び生れはじめ、それらが小屋においた捏空荘日録にしるされるようになった。ここにいる時にかぎって不思議と自己劇化が自然におこなわれた。ここにはそれらの一連の作のみを集めた。かつて誰よりも早くに詩劇 verse play を書いた私は、いまになって誰もかえりみない劇詩 a dramatic poem を書いたことになるかもしれない。もっとも私にはこの作は書いたのではなくて、出来たものであった。
(「あとがき」より)
目次
- 一の歌——茶飲み話
- 二の歌――迷いこんだ両者
- 三の歌——合歓とひぐらし
- 四の歌――秋の光
- 五の歌――朝の釜
- 六の歌――南瓜図
- 七の歌―刑風
- 八の歌――ここに来て巣を
- 九の歌――一輪一峯
- 十の歌――夕日影
- 十一の歌―蔦と稲穂
- 十二の歌――黒い小人
- 十三の歌―愛のボート
- 十四の歌――夕映えみ
- 十五の歌――水際まで満ちる灯
- 十六の歌――只有看山娯
- 十七の歌――老逢佳景
- 十八の歌―汚れた庭
- 十九の歌―寄友――「夏の淵」に
- 二十の歌―悼亡姫
- 二十一の歌――山里の春
- 二十二の歌――年歯
あとがき