1983年7月、VAN書房から刊行された松尾茂夫(1937~)の第5詩集。表紙は森鈴子。付録栞は、桑島玄二「長い詩」、寺島珠雄「なし三っつ―松尾茂夫に関して」、村田正夫「松尾茂夫の詩の世界」、三宅武「『三年へえ組』のことなど」、和田英子「やっぱりとぶ方がいい」。著者は神戸生まれ、刊行時の住所は加古川市。
ここ二年ほどの作品のなかから十七篇をえらんで本書を編んだ。海外旅行に取材したもの、日常生活に題材をとったもの、敗戦後二年間の少年時の記憶をたどったものの三部に分けて配列した。
私の海外旅行は殆んど商用による単独行だった。二、三週間の短い旅ばかりだが、ひとりで寝起きした期間は後年になっても、不思議と鮮明な記憶として甦えるものである。近年この傾向の作品が多いのはそのせいで、格別意図的に書いているわけではない。
私は敗戦の年の年末に父の郷里の神崎郡市川町から明石市大久保町に移り住んで、約二年間、小学校二年三学期から四年二学期までをこの地で過ごした。Ⅲ部はその頃の記憶にもとづく作品群であるが、ちょうど同じ時期に復員してきた大岡昇平氏が同じ大字に住んでおられた。一つの谷をはさんで双方の家が向いあっていて、直線距離にすれば百メートルほどしか離れていない。大岡氏はこの地で「俘虜記」を執筆し、私は母とともに同じフィリピンから帰らぬ父を待っていた。それはともかく、氏の「わが復員」「妻」「神経さん」など、大久保時代に題材をとった短篇小説が、今回の私の記憶を換起する際役立った。
かねてから新書版か文庫本のかたちで作品集を編みたいと思っていた。ポケットか鞄に詰めこむことでしか本を読めない生活をおくってきたこともあるが、私の過去の読書の大半はこの種の軽装本によるものだった。そのゆえか、なんとなく以前から自分の作品は文庫かせいぜい新書版の手軽さが似つかわしいと感じていた。
昨年の暮、寺島珠雄氏の紹介で伴勇氏を識り、ちょっとした偶然るかさなって、いまや新書版詩集の出版では老舗のVAN書房から本書を上梓する機会を得た。両氏をはじめ、怠惰に流れがちな私をこの数年いつも激励して下さった桑島玄二氏、詩集出版の都度なにかと面倒をおかけする和田英子氏に記して謝意を表します。
(「あとがき」より)
目次
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- イケダのハルちゃん
- 樅の木のある庭
- 玩具の鳥
- 同志よ
- ナルヴィクの太陽
- 石畳の道
- ぼくとソーニャのための弁明
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- 老人二景
- ・英字新聞
- ・ハモニカ
- 夕焼け
- ブランコに乗った鳥
- ポップアップ・ティシュー
- 血みどろメァリー
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- 白い道
- おやじの記憶
- 感電ごっこ
- ええねん ええねん ほんまにええねん
- 明石郡大久保町中の番
あとがき
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