稚年記 赤尾兜子句集

 1977年10月、湯川書房から刊行された赤尾兜子(1925~1981)の句集。

 

 三十年あまり筐底にねむりつづけてた「雪影裡」「征前裸吟」の二册の句稿を合せて、ここにひとつの句集にした。これは、私の過ぎさった青春の句屑で、十六歳から二十歳まで、およそ四年間の作である。
 大阪外語に入學して、まもなく私は短歌・俳句部に入つた。そこで句とかかはり、十九歳の秋、繰上げ卒業して、翌二十歳の一月、兵隊にとられた。
 生きて帰れまいと覺悟してゐた私は、この句稿を父に遺書として手渡し、木枯のふきすさぶ中を出征した。
 その父も、この世にない。ひとりで心の中に藏っておくつもりだったが、周圍の、度重る誘ひにのつて、形を興へられることになった。
 青春は、美しい。けれども未成熟であらう。しかも私の青春は戦争とすべて重なったので、おほむね暗い。含羞をこめて「稚年記(ちねんき)」と題するほかない。
 浄書をしてもらった櫻井照子さん、上梓の勞に當たられた湯川書房に謝したい。

昭和五十二年二月二十八日
赤尾兜子

 

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