1998年11月、鳥語社から刊行された八木道雄(1933~2005)の第2詩集。
私たちは日頃、無数の情報に満ちた一種の抽象の世界に生きていますが、仮にこれらすべての情報を消去したとき、私たちには何が残るでしょうか。おそらく、木や草や鳥やけものと変わらぬ、一個の生物としての狭い世界――狭いながらも更に広大な存在を暗示する世界が現れ、それまでに学んだものの向こうに、みずからの目で見、耳で聞き、手でさわったものだけの形作る素朴で驚異に満ちた風景が、朧げながらしだいに浮かび上がって来るのではないでしょうか。自分もそのなかにめざめそのなかを歩き回っている、理屈の向こうの、恣意的で統一性のないこの自然の不思議に驚き、その不思議を、ことばで組み上げたひとつの世界に定着し、時折その世界に入り、時間を越えて、いくたびも楽しくそこの河原を渡り、隧道を抜け、風に騒ぐ峠を越えることが出来ればと希っております。「風の歌」の続編としてこの書を編みましたが、さて、このつたない書をく方々にも、はたして、この綻びの多い世界をくつろいで歩いて頂けるものかどうか心底危惧しております。
(「あとがき」より)
目次
- 寄り添っている
- 遠い どこかに……
- まるで そこにいるかのように
- 満たし 満たされ
- どこにも着いていない
- 見えないかがみ
- 誰かが呼んでいる
- かたちに過ぎない
- しおさい
- ただ 延びることだけを
- きこえるもの
- 鳥の歌
- はるかな道
- ひかるもの
- ひきかえす
- 通り抜けている
- なにものにもならない
- 桜の道
- とおいもの
- ひとつのかたち
- ことば
- はてもなく 行き来する
- ふしぎな名前
- はてしなく そこにある
- 見えない空の下に
- 古くもない あたらしくもない
- とおい音
- ただ行き合うだけ
- ときの はなし
- 見知らぬ まひるへ
- たどりつかなかったものたち
- いつも 遠くから……
- 移りかわる
- あたたかいもの
- たとえ出会わなかったとしても……
- 考えるもの
- ねがい
- おそれ
- 扉の音
- とどまろうとする
- うつくしい季節
- ちいさく かがやくもの
- しずけさ
- もどらない
- もどろうとする
- あとは残らない
あとがき
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