死者の奢り 大江健三郎

 1958年3月、文藝春秋から刊行された大江健三郎(1935~2023)の短編小説集。第1著作集。装幀は福澤一郎。表題作は第38回芥川賞候補。「奇妙な仕事」は1957年東京大学新聞五月祭賞受賞作品。

 

 僕はこれらの作品を一九五七年のほぼ後半に書きました。監禁されている状態、閉ざされた壁のなかに生きる状態を考えることが、一貫した僕の主題でした。秋のおわりまで、僕の日常はフランス語の勉強に比重が大きくおかれていて、小説についてはamateurにすぎませんでしたが、やがて逆に、小説のなかの主題が僕を拘束しはじめ、僕はその結果、悪い學生にかわりました。
 ここには『飼育』などの中篇の系列と『他人の足』をふくむ短篇のそれとを収載しました。僕が日本の學生の消極的、否定的側面を強調するという批判には、人間の積極的、肯定的側面をえがくのにふさわしい小説型式、長篇を書くことでこたえたいと思います。
 僕は眞摯な編集者たちにふれる喜びに励まされたことが自分の作品をつくりだすことの最も主要な推進力になったことをここに記したいと考えます。そして寛大な東大佛文研究室の先生たちと、優しい友人たち。
 僕は彼らの誠實さにこたえるためにも、自分の作品が日本語の美しく正確な格調の傳統から離れ、後退的な主題にみたされはじめる時には、頑強に沈黙をまもる權利をもちます。
 僕はこの書物を、僕が小説を書くことよりもむしろ、よく勉強する良い學生であることを望んでいる母と兄、あなたたちに贈りましょう。janvier,1958大江健三郎
(「後記」より)

 


目次

  • 死者の奢り
  • 偽証の時
  • 飼育
  • 奇妙な仕事
  • 人間の羊
  • 他人の足

後記

 

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