1953年11月、詩宴社から刊行された伊藤勝行の詩集。装幀は山田隆一。
この詩集は、昭和二十七年一月から現在までの作品中から三十一篇を選んで收載したものである。ちょうど私が詩宴の同人となった時からの作品ということになるが、詩らしきものを書き始めたのは、それ以前の昭和二十五年九月頃からである。
戦時中、教育の仕事にたずさわり、中國の職場にも立った私は、慣うにはあまりに大きく重い罪を背負っている。私の二十年間を奪い、かかる罪過を背負わせた非人間的なものにして激しいいきどおりを感ずる。そして私は叫んだ。<人間をして人間にかえらしめよ>と。
私の叫びは私の詩となつた。かつての冷然とした私の強さとは違つて、愛を求め、つまずき、孤獨にたえがたい人間の弱さもあらわに、私の詩が生まれている。しかし私の愛情は歪められていたようである。世の中の大きな歪みのために。一人一人の愛情をはばみ歪め、更に抹殺しようとしてのしかかつてくるものに對する、反逆と憎悪こそ、今日の人間を救うだろう。くらい現代に、自己の姿勢を決めてかかることが、新しい詩の方向を決定することになるのではないか。私はそう思う。
人間に對する愛と現代に對する抵抗をうたいながら、私は執拗にくいさがっていくだろう。
(「あとがき」より)
目次
・獨杯
- 葡萄
- いのち
- 夜鳥
- 罪
- 夜景
- かげ
- 獨杯
- 夜の野へ
- 小さい空洞
- ねがい
- 床屋で
- 辻に立つて
・白い花びらのために
- 少年の日記
- 白い花びらのために
- 魚
- 池
- 風
- 山村の彫刻
- 挽歌
- ベッドの少年
- 朝
- 死神という名の生きもの
・二重の風景
- 二十五時
- まつくらな雨の中を
- 月蝕
- 街のわらび
- 否定
- 二重の風景
- ジェット機の方向
- 馬
- 坊や
あとがき