1995年8月、思潮社から刊行された時里二郎(1952~)の詩集。第37回晩翠賞受賞作品。
少年の頃 白い鎧戸の百葉箱が眩しかった いつも遠巻きにしながら その遠い夢の原器に棲んでいる生き物のことを考えていた
いつだったか読み捨てられた街の骨董屋で三葉虫の化石を買ったのも そんな過渡期の物語の破片を嗅いでみたかったからかもしれない 卵形の石を割ると胎児のような三葉虫が ほぼ完全な形で眠っていたはずだが もう何年もそれを確かめていない
そう言えば夢前川(ゆめさきがわ)のほとりで採った四頭のウスバシロチョウも この夏に採ったのが未だに四十一本の留針が刺さったままだ
ぼくの仮眠に紛れて漂着した少年の羽の匂いのする 薄い記憶を展翅しながら それが辿ってきた海図の余白に あの白い鎧戸の迷宮に棲んでいる生き物の影が ある地誌の言葉を紡ぎ始めていることに ぼくは気づいていたのだろうか
(「添書」より)
目次
・百葉箱
- 採星術
- 耳目抄巻第四第二 播磨守、夢に杏(あんず)を食ひて横死したる事
- テロリスト
- マカール、或いは旅する山羊
- 須磨
・ジパング
Ⅰ ジパング
- 地図
- 別荘の番人
- 大殿(シニヨーレ)
- 食事
- 壜
- 壜
- 性器
- ジオラマ
- 謁見
- 蝕
- 壜
- 椅子
- 歯
- オルガン弾き
- 散歩
- 別荘
Ⅱ 原器
- 原器
Ⅲ ジパング観光
- 商売
- ノスタルジア理論
- 詩人たち
- 土産
添書